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化学講座 第58回:化学反応速度⑨ 緩衝溶液

の混合水溶液や、の混合水溶液などに酸や塩基を加えてもpHはあまり変化しない。このように、酸や塩基によるpHの変化を妨げる働きを緩衝作用といい、そのような働きを持つ水溶液を緩衝溶液という。
緩衝作用は弱酸とその弱酸と強塩基の塩の混合水溶液や、弱塩基とその弱塩基と強酸の塩の混合水溶液で混合比率が1:10~10:1のものが示します。

緩衝作用のメカニズム

例として100mLの 0.1mol/L、 0.1mol/Lの混合水溶液を考えてみようと思います。まず、この水溶液中で各成分がどうなっているのかを考えましょう。
水溶液中では塩であるは完全に電離してに分離します。
このため、を溶解させると、濃度が非常に高くなります。したがって、ルシャトリエの原理よりの電離平衡+は左に大きく偏ってしまい、はほとんど電離していない状態になります。(もともと電離度が低いが、この状態では全く電離しないとみなせる。)
その結果、この水溶液は[]= 0.1mol/L []= 0.1mol/Lの水溶液とみなせます。

緩衝溶液では、塩は完全に電離し、弱酸(弱塩基)は全く電離していないとみなす。

 

さて、この水溶液中にはが同量存在していることが分かりました。
は酸として、は塩基として働く物質でした。普通、酸と塩基を混合すると中和して塩と水になってしまいますが、この水溶液は酸と塩基が中和することなく等量混合されているのです。

今度はこの緩衝溶液のpHを計算してみましょう。酢酸の電離定数をとします。
緩衝溶液のpHを求めるには、質量作用の法則の式を使います。

1)緩衝溶液に酸を加えた場合

では、ここにを加えるとどうなるでしょうか。
この水溶液では+の平衡が成立しています。ここにを加えると、ルシャトリエの原理より、この平衡は左へ移動します。
つまり、+の反応により、の増加が抑えられるのです。このため、pHの低下が抑えられます。

実際に計算してみましょう。
 の混合溶液100mLに、HClを0.0050mol溶解します。このとき、HClの溶解に伴う水溶液の体積変化はないものとして、HClを加えた後のpHを求めましょう。
ただし、酢酸の電離定数をとします。ただし、とする。

この反応では、+の反応により、HClとして加えたが全てになったと考えます。

ですので、反応の前後で物質量の変化は下表のようになっています。

では、pHを求めてみましょう。

HClを加える前のpHは先ほど求めたように4.7でしたから、pHの低下は0.5です。

対照実験として純水100mLにHClを0.0050mol溶解した場合のpHを求めます。ただし2=0.30とします。
溶解後のHClの濃度は、なので

HClを加える前は純水なのでpHは7.0です。
したがって、phの低下は5.7で、緩衝溶液に比べて段違いに大きな値です。

2)緩衝溶液に塩基を加えた場合

次に、を加えた場合について説明します。
+の平衡が成立しているところに、を加えると+の反応によりが消費されます。すると、ルシャトリエの原理によりこの平衡は右へ移動します。
つまり、+の電離が起こります。しかし、生じたは次々消費されていき、結局、加えたが全てと反応するまでこの電離が続きます。このためpHの上昇が抑えられます。

実際に計算してみましょう。
 の混合溶液100mLに、NaOHを0.0050mol溶解します。このとき、NaOHの溶解液に伴う水溶液の体積変化はないものとして、NaOHを加えた後のpHを求めます。
ただし、酢酸の電離定数をとします。

この反応では、+の反応により生じると、NaOHが電離して生じるが反応して全てになったと考えます。

水溶液の体積が100mL、 ですから、存在しています。ですので、反応の前後では下表のようになっています。

では、pHを求めてみましょう。

NaOHを加える前のpHは4.7でしたから、pHの上昇は0.5です。

対照実験として、純水100mLにNaOHを0.0050mol溶解した場合のpHを求めます。
ただし、2=0.30 とします。

NaOHを加える前は純水なのでpHは7.0です。したがって、pHの上昇は5.7で、緩衝溶液に比べて段違いに大きな値です。

の混合水溶液もの混合水溶液と同じように緩衝作用をもちます。こちらは練習問題にしますので、考えてみてください。

問題

[]=0.10mol/L、[]=0.10mol/Lの混合水溶液100mLに

1)0.0050molのHClを加えた場合 2)0.0050molのNaOHを加えた場合

1)、2)それぞれのpHを求めよ。ただし、アンモニアの電離定数とし、HClやNaOHの溶解による溶液の体積変化は考えないものとする。

解説

緩衝溶液なのでは全く電離しておらず、は完全に電離したと考える。HClやNaOHを加える前は

1)HClを添加すると、HClが放出したに吸収されてとなり、次のような平衡に達する。

2)NaOHを添加すると、NaOHが放出したは、が放出すると反応してとなる。

緩衝作用は、滴定曲線でも見ることが出来ます。
例えば下図のように、をNaOHで滴定したし、をHClで滴定した場合、滴下した瞬間は大きくpHが変化しますが、すぐにその変化が小さくなります。
これは、水溶液が緩衝溶液になるためで、酸や塩基を加えたときのpH変化が抑えられるのです。

 

 

平野 晃康

平野 晃康

株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師

昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。

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