この章では、高校生物のなかでも難しく理解しづらい浸透圧の分野について学んでいきます。浸透について学ぶ前に、浸透と対比される拡散という現象について理解しておくと分かりやすいです。ではまずここで教科書に掲載されている「拡散」の説明文を載せておきます。

拡散:溶質が水などの溶媒中に均一に広がる現象

だそうです。なんだか分かったような分からないような...そこでもう少し説明を加えると以下のようになります。

拡散:ある物質が液体に溶けているときに、液体のどこの部分でも濃度に差がなくなるように均一に広がる現象

これをコーヒーと砂糖の例で考えてみます。

砂糖をコーヒーに入れたとき、入れた瞬間はまだ入れた周辺しか砂糖は溶けていないですが、時間が経つと放っておいても砂糖は広がって全体が甘くなりますね。このように、拡散とは砂糖(=溶質)がコーヒー(=溶媒)のなかで均一に広がっていくことです。

拡散のイメージ

図3:拡散のイメージ

イメージとしては、拡散=「砂糖の濃さがところどころ違うから、砂糖が動いて溶けていくこと」と考えてください!ここまでが拡散についてでした。

① 濃度差をなくすように
② 砂糖が動く

この2点が拡散で重要な点です!

ここからは浸透について話していきます。ここでもやはり、まずは教科書での定義を紹介します。

浸透:分子やイオンなどが膜を通して移動すること

ふーん...それで?といった感じです。

何も具体的なイメージが付きません。これでは訳が分かりませんから、もっと具体的に、かつ簡単に説明します。

浸透も拡散同様、コーヒーと砂糖を例に挙げて説明します。いま、ブラックコーヒーの入ったカップをちょうど半々になるように特殊なフィルターで仕切ることを想像してください。このフィルターには小さい穴が開いていて、水はこの穴を通ることができますが、砂糖の分子は水よりも大きいので通ることが出来ません。なんとも絶妙な大きさの穴なのです。

半透膜

図4:半透膜

このように、溶質は通らないけれど、溶媒は通り抜けることのできる膜のことを半透膜と呼びます。ちなみに、細胞膜は半透膜の1種です。これは後々重要になるので覚えておいてください!

次にフィルターで仕切られた片方のブラックコーヒーにだけ砂糖を入れます。すると、こちら側では砂糖が拡散してそのうち甘くなります。ですが、砂糖はフィルターを通過できないので、フィルターで仕切られた反対側は相変わらずただのブラックコーヒーで、苦いままです。そうすると、砂糖の濃さの違う甘いコーヒー(以降甘い側)とブラックコーヒー(以降ブラック側)がフィルターによって仕切られていることになりますね。

砂糖はフィルターのためでは拡散するが、フィルターを通り抜けることはできない

図5:砂糖はフィルターのためでは拡散するが、フィルターを通り抜けることはできない

砂糖の濃さが違うのですから、もしもフィルターがなければ、砂糖は拡散して甘い側からブラック側に移動しようとするでしょう。ところがフィルターがあるため、砂糖は甘い側からブラック側へは拡散できません。砂糖の濃さが違うのに砂糖は移動できない...こういうときはどうしたら砂糖の濃さをなるべく均一にできるでしょうか?ここで考えてほしいのは、

砂糖の濃度=砂糖の量÷コーヒーの量

という関係です。つまり、砂糖の濃度は砂糖の量だけでなく、コーヒーの量でも調節できるわけですから、砂糖が移動できないならコーヒーが移動すればよいのです。

砂糖の濃度が薄い(=コーヒーの量が多い)ブラック側から、

砂糖の濃さが濃く(=コーヒーの量が少ない)甘い側へコーヒーが移動します。

コーヒーがブラック側から甘い側へ移動

図6:コーヒーがブラック側から甘い側へ移動

こうすることで濃度が均一に近づくわけですね。

このように、特殊なフィルターで仕切られている場合に、溶質が拡散する代わりに溶媒が移動する現象浸透と呼びます。

コーヒーの移動こそが浸透の本質です。移動する方向は砂糖の濃度が薄い側から濃い側です。

ここで注目してほしいのは、

拡散は、砂糖の濃度が薄い側から濃い側へ、砂糖が、移動する現象だったのに対して、
浸透は、砂糖の濃度が濃い側から薄い側へ、コーヒーが、移動する現象だということです。

冒頭に、浸透と拡散を対比して考えると分かりやすいと述べましたが、それはこのように対になっている現象だからなのです。

ところで浸透、つまりコーヒーの移動はいつまで起こるのでしょうか?この疑問を解決するにはコーヒーカップの図に着目するとよいです。浸透が起きた結果、液面の高さに差が生じています

この差の分のコーヒーにかかる重力が液面の高い方から低い方へかかっています。

一方で浸透は砂糖の濃度の薄い側から濃い側へ起こっています。つまり、コーヒーが移動する力が液面の低い方から高い方へかかっています。

浸透圧

図7:浸透圧

この力が釣り合うまで液面の高さが変化し続けます。

このように、コーヒーが移動する先にかかる力浸透圧といいます。用語を使って言い換えれば、浸透を受ける側にかかる圧力のことです。

しかし、コーヒーが移動しようとする力を計測することは難しいので、浸透圧は液面の高さの差として計測されます。ですから参考書などにはよく「液面の高さの差に相当する圧力」などと書いてあるわけですね。

以上が拡散と浸透についてでした。一見難しそうに思われますが、かみ砕いていけば非常に簡単な仕組みなのです。