この章ではエネルギーを用いた能動輸送について学んでいきます。そもそも能動輸送はなぜエネルギーを使う必要があるのでしょうか。それは濃度差に逆らって物質を輸送するからです。普通、ある物質の濃度に差があった場合には、濃度が大きい方から小さい方へ移動します。これにはエネルギーを要しません。しかし濃度の小さい方から大きい方へと物質を移動させる際にはエネルギーが必要なのです。ここまでをまとめますと、能動輸送とは、「エネルギーを用いて、物質の濃度差に逆らって行われる輸送」と言うことができます。

能動輸送の具体例としてナトリウムポンプが挙げられます。ナトリウムポンプは名の通りナトリウムを輸送する働きを持ちますが、実はカリウムを輸送する働きもあります。これらのナトリウムやカリウムなどのイオンは、細胞の内外で比べると大きな濃度差があります。例えば、ナトリウムイオンは細胞で濃度が大きく、カリウムイオンは細胞で濃度が大きいわけです。前章で話したように、細胞内外でイオンに濃度差があればチャネルによって促進拡散が起こるのでした。これにより濃度差が小さくなろうとする動きに負けないばかりか、進んで濃度差を作ろうとするのがナトリウムポンプの働きです。ナトリウムポンプはATPと呼ばれるエネルギーを使って、もともと細胞外で多いナトリウムをさらに外へ出し、もともと細胞内で多いカリウムをさらに中へ入れます。こうすることでナトリウムとカリウムの濃度差が保たれているわけです。ナトリウムポンプを構成する主なタンパク質はナトリウム-カリウム-ATPアーゼと呼ばれる酵素で、この酵素がATPを分解して得られるエネルギーにより輸送が行われます。

これまで2つの章にまたがって受動輸送と能動輸送を見てきました。これらの輸送の仕組みと、もとから細胞膜がリン脂質からなる半透膜であるという性質により、細胞膜はあたかも自分自身で通過する物質を選択しているかのように見えます。このような性質のことを選択的透過性と呼びます。

以上が細胞膜を通した輸送の内容でした。細胞膜の性質と、受動輸送と能動輸送の違いを理解することがこの章のカギです。ぜひ整理して理解してください。