今年度は、ハンガリーの各医学部を卒業し、医師国家試験時受験資格認定を受けた21名の卒業生が今年の2月に実施された医師国家試験に臨み、15名が合格した。
今も、ハンガリーの各医学部では多くの学生が高いモチベーションを保ちながら医師を目指している。
今回は首都ブタペストにあるセンメルワイス大学医学部で学ぶ6人の学生が集い、ハンガリーでの勉強、生活、日本との違いなどについて、HMUの理事とともに日本の医師や医学部生も交えて語り合った。

ハンガリー医科大学事務局 座談会 インタビュアのご紹介

慶應義塾大学医学部客員教授、元厚生労働省医政局長、元国際医療福祉大学副学長、元WHO 健康開発総合研究センター長
岩尾總一郎
HMU 専務理事
石倉秀哉
東邦大学医学部教授
日本医療技能評価機構理事
長谷川友紀
大分東明高等学校卒
センメルワイス2017年度卒業生
矢野 輝久
東筑紫学園高等学校卒
センメルワイス大学医学部5年生
田中 秀一
Hawaii Preparatory Academy卒
センメルワイス大学医学部1年生
真宅 竜志
県立千葉高等学校卒
センメルワイス大学医学部4年生
谷中 夏海
清泉インターナショナルスクール卒
センメルワイス大学医学部2年生
岡田 玲子
県立宇都宮高等学校卒
予備コース生
藤原 悠輝

※学年及び肩書は2018年3月現在のものです。

世界に羽ばたける幅広い選択肢

石倉:

今日は、ハンガリー、ブダペストにあるHMUのスタディルームから座談会をお送りします。センメルワイス大学の医学部の学生6人、日本からは、HMU理事の岩尾先生と東邦大学医学部教授(日本医療技能評価機構理事)の長谷川先生のお二人に来ていただきました。

岩尾:

まず最初に、皆さんがハンガリーの医学部に進学した理由を聞かせてください。

矢野:

日本で、合格した大学に入学するか、浪人して医学部進学を目指すか、あるいはハンガリーの医学部で学ぶか、いろいろ迷ったのですが、後悔しないのはハンガリーに行くという選択だと思い決断をしました。高校3年生のときに『週刊朝日』の進学ムック『医学部に入る』の記事でハンガリーの医学部のことを知ったのがきっかけで、海外で勉強できるのはとても魅力的だと感じていました。後悔はなく、成功したと思っています。

田中:

私は、一度は医学の道をあきらめ、法学部を受験し合格していました。しかし、ハンガリーの医学部の新聞広告を見て、法学部に行くか、あきらめずに夢をつなぐためにももう一度がんばってみるか、ずいぶん悩みましたが、自分の可能性を試してみたいという思いがつのり、親の後押しもあってハンガリーに来る決断をしました。

谷中:

直感的なのですが、広告でハンガリーの医学部のこと知り、ビビッと感じるものがあって決めました。それと、外国で英語で勉強できるということから、日本で勉強するのとは違った強みが得られると感じたのも理由になっています。

長谷川:

3人とも、自分で記事を読んだり広告を見たりしたのですか?

矢野:

高校に進学ムックがあり、その記事を読んで興味をもち自分で調べました。

田中:

私の場合は、新聞に載ったセンター試験の解答の下に記事があり、インターネットで調べました。

谷中:

私は広告を見て、資料をいただけるということで申請し送っていただきました。

長谷川:

両親から、なぜ日本の大学を受験しないのかと問われたりはしなかったのですか?

谷中:

尋ねられたし、最初は反対もされました。しかし医師になりたいという自分の熱意はかたく、ハンガリーでがんばって勉強すると言って納得してもらいました。

岡田:

私は、小学校からアメリカで生活してきたため、日本の大学で勉強するという考えはあまりなかったのですが、アメリカの医学部に進学するにはアメリカ国籍でないと難しいうえに、学費も高額なんです。どうしようか迷っているうちに、父からハンガリーの大学を教えられ、資料を取り寄せ調べました。そこでわかったのが、ハンガリーで医師になって以降、日本に戻って医師免許を取得してもいいし、アメリカにも行けるなど、選択肢が広がることがわかりました。将来、どこに住みたいのかまだ決められないので、いろんな選択肢が得られるのはすばらしいと思いハンガリーを選択しました。

真宅:

私は、アメリカの大学を卒業し、1年間、アメリカの研究所で助手をしながら医学部を目指したり、日本で学士編入に挑戦したりしました。そのときに、HMUの広告を見つけて資料請求したのがきっかけとなりました。挑戦し自分を受け入れてくれた、チャンスを与えてくれたというのが、ハンガリーだったという感じです。

藤原:

一度は医師になることをあきらめかけたのですが、ハンガリーの医学部のことを知り、もう一度だけチャレンジしてみたいと思ったのがきっかけです。海外の医学部で学び、英語力とか英語でのコミュニケーション能力などが習得できるとともに、海外に行きたいという思いもあって決断しました。

英語で医学を学び多様な学生と触れあえる学びの場

石倉:

ハンガリーでは、どのような大学生活をおくっていますか?

矢野:

朝8時頃に大学へ行き、終わりが午後4時くらいで。夜も勉強し、寝るのは午前0時頃です。週末は、スタディルームで2時間ほど勉強しています。

田中:

講義と実習があり、終わるのは午後6時頃です。夕食後にも勉強し、深夜2時頃に寝ます。休日はチューターをしているのでその準備もしなければならず、かなり忙しい毎日をおくっています。

谷中:

私の場合は、朝8時頃から授業があり、終わりは遅いときで午後6時過ぎ、早いときは午後3時くらいです。夜は、毎日2、3時間ほど家で勉強しています。

岡田:

私は現在、基礎科目しかなく、授業は朝8時に始まって、終わりは早ければ昼、たまに午後6時くらのときがあります。勉強は平日で2、3時間、週末はスタディルームで試験が近づけば4時間くらい、試験期間中はほぼ毎日7時間ほど勉強しています。

藤原:

私は予備コースということもあり、先輩たちに勉強方法などを聞けますし、一番集中できる場所という利点もあって、常にスタディルームで勉強しています。

長谷川:

英語についてですが、藤原さんは日本で勉強してきて、今は英語の教科書で勉強しているのですか? 英語の教科書に、とまどいとかはなかったですか?

藤原:

私は日本で化学を選択し知識はあったので、英語に置き換えれば理解できました。ところが生物に関しては全く知識がない状態で来たため、最初から英語の教科書で勉強しています。

岡田:

私はアメリカで育ったので英語は問題ないのですが、ハンガリーは試験の基本が口頭試験です。アメリカでは口頭試験が多くなかったこともあって、慣れるのに2年ほどかかりました。

真宅:

ネイティブかネイティブ並みの高い英語力のある学生でも、勉強で苦労している人はいます。英語が堪能だからといって、油断しないことです。逆に、英語が得意でなくても、ストレートに進んでいる人もいます。英語だからといって極端に怖がらないで、前向きになって挑戦していけばいいと思います。

岡田:

ハンガリーでは英語を話さざるを得ないので、英語を話す恥ずかしさとかは乗り越えていけると思います。

岩尾:

スタディルームには、日本語の教科書も置いてありますね。学生の多くは、まずはハンガリーの大学を卒業するために英語で勉強し、その後、日本の国家試験を受けるまでに言葉の突き合わせのような勉強をするために日本語の教科書を使用する例が多いというのが、私の印象です。

長谷川:

ハンガリーでの勉強は、英語で学んだほうが効率的だと思いますね。

石倉:

センメルワイス大学で一番苦労した科目は何ですか?

矢野:

解剖学です。1、2年生のときは、英語力が高くないため苦労しました。大学は基礎科目に力を入れているため、解剖学についてはすごく厳しいと思います。

田中:

私も、解剖学の勉強が一番きついと感じました。最初の2年間、自分の勉強スタイルが確立していないうえに、学ぶ量や暗記量の多さも関係していたと思います。

谷中:

私も、苦戦したのは解剖学でした。こなさないといけないトピックの量が膨大で、確実に勉強する必要がある重要科目でした。

岡田:

私はまだ2年間しか通っていないんですが、皆さん同様に解剖学が一番大変でした。それと、組織学や細胞学にも苦労しました。勉強しなければならない量がものすごく多く、英語ができるといっても全部理解するのが大変でした。

真宅:

私も、大変なのは解剖学だと思います。論理を理解できないトピックも多いまま、試験に挑んだこともあります。

勉強に打ち込める静かな学園環境

石倉:

勉強中心の毎日が続く中、どんなことで気分転換をしていますか?

岡田:

私は友だちと一緒においしいブランチを食べに行ったりして、リフレッシュしています。勉強に集中できるよう、ストレスをためないようにしています。

矢野:

大学にサークルがあり、私は月曜日と水曜日にバスケットを楽しんでいます。他の日は、ジムに行って体を動かすようにしています。

田中:

ジムと契約していて、走ったり泳いだりしています。後は、家で日本から持ってきた小説を読んだり、ネットで動画を見たりというようなインドアでの趣味で息抜きをしています。

谷中:

私は、試験期間中が特にそうなんですが、どうしても、こもりがちになるため、できるだけ散歩などで外に出るように心がけています。後は、高校でオーケストラに入っていたので、音楽鑑賞を趣味としています。

石倉:

ハンガリーでは、クラブ活動などはやっていないのですか?

谷中:

オーケストラに入りたかったんですが、楽器を買うとかなりの出費となるので、あきらめました。1、2年生は体育を履修しなければならないので、テコンドーがおもしろそうだと思って週1回はテコンドーをやっていました。

岡田:

私は体育の授業でズンバを選択し、ズンバをやっています。

石倉:

ズンバが体育の時間にあるんですか?

岡田:

そうなんです。週1回の授業があって、ズンバを楽しんでいます。

真宅:

私はどちらかといえばインドア派で、映画を見たり、ゲームをしたり、電子ギターを弾いたりして楽しんでいます。後は、野球が好きで野球をよく見ています。

藤原:

私は体を動かすことが好きなので、サッカーやボルダリングをやっています。後は、ドナウ川にあるマルギット島に行って、ロードワークなどで息抜きをしています。

石倉:

そういえば、ハンガリーにも、日本と同じように温泉が何カ所もありますよね。

矢野:

利用料金が3000円ぐらいしてちょっと高いんですけど、温泉は何カ所もあります。ハンガリー、特にブダペストは楽しいことが多く、のめり込んでしまう人も少なくなりません。ただし、自制心をもって生活すれば、リラックスして勉強できる場所だと思います。

論理的な思考を養えるハンガリーでの勉強

石倉:

皆さん、どのような医師を目指して勉強していますか?

矢野:

まだ専門分野を決めていませんが、内科系かなと考え、最初に自分の専門を一つ決め、そのうえで総合診療とかができたらいいのかなと考えています。

田中:

私は現在、総合診療内科医になりたいと考えています。ただ病理学についても関心があり、今後、研修医として経験を積み病理医か総合診療医のどちらかに進みたいと考えています。

谷中:

将来、どのような医師になるのかはまだ決めていないのですが、担当の先生がオンコロジストの方が多かったということもあり、今、一番関心があるのはオンコロジーです。

岡田:

いろんな経験を積むことで、どのような医師になるのかが明確になると思っています。今、私が興味を持っているのは外科、それも小児外科です。

真宅:

私は、これまでのアメリカや日本での経験と、ハンガリーやヨーロッパでの経験を踏まえ、言語だけに限らずいろんな国や文化を理解し、さまざまな国の人たちを診られる精神科医にと思っています。

藤原:

私は何科の医師になりたいという具体的な目標はまだありません。いずれの科も魅力的で興味があり、ナンバーワンにならなくても私にしかできないといった特徴ある医師になりたいと思っています。そのためにも、一生懸命に勉強しなければと考えています。

石倉:

これからハンガリーにやって来る人たちに、どのようなことを伝えたいですか?

矢野:

これからの時代、グローバル化がますます進み国際情勢も大きく変動すると思います。医師もそうした国際的な変動に対応できるよう、さまざまな能力を身につけておく必要があり、英語も能力の一つとして助けになると思います。ハンガリーでの学びは将来に役立つと思うので、ハンガリーに来ることを検討されている人には、ぜひにとおすすめしたいです。

谷中:

ハンガリーで勉強してみて、日本との違いを感じるのは試験です。口頭試験が多く、論理的に説明できるかどうかが重要なポイントになると思います。そのため、普段からこの点に注意して勉強すれば、説明能力が鍛えられるはずです。英語の能力はもちろんのこと、論理的な説明能力も将来、 医師になってから役立つと思います。

岡田:

日本を出ると、日本の良さを認識できます。海外から日本を見る視線を養ったり、世界観を広げることはとても重要だと思います。センメルワイス大学にはさまざまな国から学びにやって来た学生たちがいて、彼らと日常的に接することで思考を柔軟にしていくことも人生においてかなり大事だと思います。患者さんにはいろんな人がいるので、ここでの経験はさまざまな患者さんを理解するうえで有益だと思います。

真宅:

ハンガリーの大学は、入学という点では日本より比較的簡単だと思うのですが、だからといって滑り止めというような安易な気持ちでは来ないほうがいいと思います。日本で勉強する以上に大変なところもあり、そのあたりをきっちりと理解してハンガリーに来たほうがいいと思います。

藤原:

この国では、医師になりたいという強い意志持った人でなければ通用しないと思います。医師を目指している間にいろんな問題に直面し、挫折も経験するでしょう。日本との違いに慣れる必要もあります。それらを乗り越えるためにはモチベーションを維持し、医師に絶対なるんだという気構えが必要だと思います。海外にまで来て、どんな医師になるのかという目標がないとすれば、かなり厳しいと思います。

長谷川:

医学部というのは、基本は理科系なんですね。耐え忍んで、一生懸命勉強し続けますが、医師になると文科系の要素が必要だと気づき、実はむしろその方が重要だということを理解するようになります。そのため、いろんな成長過程でさまざまな経験をすることがとても貴重だと思います。