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第7回:分子性物質

分子間力

原子の性質は、その原子の最外殻電子数によって決まりましたが、物質の性質は、その物質を構成する分子、あるいは原子、イオン間に生じる結合の強さによって決まります。例えば、融点や沸点は物質の熱運動が結合による束縛に打ち勝つ瞬間の温度なので、融点や沸点は結合が強くなるほど高くなります。

分子とは、共有結合でいくつかの非金属元素の原子が結合してできた「原子のかたまり」であるという事は前回説明しました。

今回は、分子間に働く力と、分子で構成された物質の性質について説明します。

分子間には大きく分けて二種類の引力が働いています。1つはファンデルワールス力といって全ての分子間に働く、共有結合の100分の1位の大きさの非常に弱い力です。もう1つは水素結合といって水素とフッ素、水素と酸素、水素と窒素の結合を持つ分子間にはたらく力で、共有結合の10分の1くらいの大きさの力です。

分子間力には引力が働く

分子間には、引力が働く。
ファンデルワールス力 (全ての分子間)
水素結合 (一定の条件を満たした分子間)
これらをまとめて分子間力という。

ファンデルワールス力

ファンデルワールス力は分子間に働くクーロン力で、電荷の偏りを持たない無極性分子間にも働きます。

電荷がないのにクーロン力がどうやって働くの?と、疑問に思うかもしれませんね。分子の周りには電子が何重にも取り巻いています。この電子はじっとしているのではなくて、決められた電子軌道の中をランダムに動き回っているのです。

動き回っていると、偶然一方に電子が偏ってしまうことがあります。
つまり、瞬間的には分極した極性分子のようになるのです。
そうすると隣の分子の電子も分極した分子からクローン力を受けて偏ります。隣に正電荷が現れたので、思わず引き付けられてしまうわけですね。

そうすると、この2分子の間にはクーロン力が生じてひきつけあいます。すぐに電子が移動して分極はなくなってしまうので、この力は瞬間的なものにすぎませんが、分子で構成される物質の中ではこういう瞬間的な引力がたえず生じているのです。

分子間力には引力が働く

分子間にはたえず瞬間的なクーロン力による引力が働いている。

その時間平均が分子間に働くファンデルワールス力の正体です。

分子間に働く引力を発見したのは、気体の状態方程式を研究していたファンデルワールスでした。彼は、気体分子の挙動を研究している時に、分子間に引力が働いていることに気がついたのです。
ですから、今でも分子間に働く力を全部まとめてファンデルワールス力と呼ぶことがあります。

ただし、この講義ではファンデルワールス力は分子間の瞬間的な分極(瞬間双極子と言います)により生じる力の事を指すことにします。

さて、このファンデルワールス力ですが、あくまでもクーロン力なので、「電荷が大きく」「距離が近い」ほど強く働きます。ですから、分子が大きいほど強いファンデルワールス力が働きます。
さて、なんで分子が大きいほど強いかわかりますか?

分子が大きいと、電荷の偏りも大きくなります。つまり、瞬間的に生じる電荷が大きくなるのです。 分子の大きさは分子量で考えればいいですから、分子量が大きければ大きいほどファンデルワールス力は強くなります。

例として水素と臭素の沸点を比べてみましょう。水素の沸点が-252.8℃であるのに対し、臭素の沸点は58.8℃です。これは、分子量が水素(分子量2)より大きな臭素(分子量160)の方が分子間に大きなファンデルワールス力が生じるためです。

分子量の大きさでの比較

【分子量が大きい=分子が大きい】ほど、電荷の偏りはダイナミックになり、大きく分極するため分子間に働くクーロン力は大きくなる。
分子量が大きいほど大きなファンデルワールス力が働く。
従って、分子量が大きければ大きいほど沸点・融点が高くなる。

ファンデルワールス力の大きさを決める要素にはもう1つあります。それは分子の形状で、細長い物の方がファンデルワールス力は大きくなります。分子の形状が細長いと、分子同士はより接近することができます。したがって、分子量が同程度であれば、ファンデルワールス力は細長い形の分子ほど強く働きます。

例としてペンタン(直鎖状)2-メチルブタン(枝分かれ構造)、1,2‐ジメチルプロパンを比較してみると、分子量は全て同じですが、沸点はペンタン>2-メチルブタン>1,2-ジメチルプロパンの順になっています。

ペンタン/2-メチルブタン/1,2‐ジメチルプロパン

ちなみに、2-メチルブタンはイソペンタン、1,2-ジメチルプロパンはネオペンタンとも言います。この名前で出てくることもありますから、覚えておきましょう。

分子の極性

さて、異なる種類の原子間に働く共有結合では、電気陰性度の違いに基づく電荷の偏りが生じます。つまり、電気陰性度の大きな原子のほうに共有電子対が引き寄せられ、その原子が負に帯電する一方で、もう一方の原子は正に帯電します。これは前回お話ししましたね。

電気陰性度が同じなので、電荷の偏りがない:極性なし/電気陰性度の大きいClが、負に帯電。極性あり

今回は、分子全体の電荷の偏りを考えてみます。まず、メタンと二酸化炭素を例にとって考えてみましょう。

下図を見ると分かるように、メタンや二酸化炭素では、炭素と水素、炭素と酸素は電気陰性度の大きさが違いますから、1つ1つの結合には電荷の偏りがあります。しかし、分子の形が対称形ですから、分子全体ではその偏りが打ち消しあってしまうのです。ですから、分子全体での電荷の偏り、つまり、分子の極性は無いのです。

正電荷の重心と、負電荷の重心が一致するため、電荷の偏りが打ち消されて、全体として極性を持たない。

ただ、分子の形状が対称形だと電荷の偏りが打ち消されるという説明だけでは今ひとつわかりにくいですよね。そこで、分子全体の電荷の偏りは、電荷の重心の位置を考えると良く分かります。無極性分子では、正電荷の重心と負電荷の重心が一致するため、電荷の偏りがなくなり、極性分子では正電荷の重心と負電荷の重心が一致しないため分子全体に電荷の偏りが生じるのです。

例えば、メタンと二酸化炭素では正電荷の重心と負電荷の重心が一致します。そのため、正電荷と負電荷がお互いに打ち消し合ってしまい、全体は無極性になるのです。

次に、クロロメタンを考えて見ましょう。分子の形状が非対称形をしていますね。ですから、分子内にある結合に生じている電荷の偏りは打ち消されず、分子全体でも電荷の偏りを生じます。つまり、クロロメタンには極性があるのです。

クロロメタンの四面体

これも電荷の重心の位置で考えてみましょう。上図右側が電荷の重心位置を示したものですが、負電荷がやや上の方(Cl原子に近い方)にあるのに対し、正電荷の重心位置はやや下の方(H原子に近い方)にあって、電荷の重心位置は一致しません。これは、この分子を作っている元素の中で、塩素原子が最も電気陰性度が大きく水素原子が最も電気陰性度が小さいためです。
電気陰性度の大きい塩素が電子を強く引き付けてしまっているんですね。

したがって、クロロメタンではClの方がやや負に帯電し、Hの方がやや正に帯電しているのです

さて、ファンデルワールス力というのは、瞬間的な分極によって生じるクーロン力の時間平均であることはお話しした通りです。それなら、瞬間的でなく、最初から極性を持っている分子間にはより強い力が働くことになりますよね。ですから、極性のある分子は極性のない分子よりも沸点が高くなります。

例えば、無極性分子のフッ素(分子量38)は沸点が-188℃であるのに対し、極性分子の塩化水素(分子量36.5)は沸点が-85.1℃です。

このように、極性分子間には無極性分子間に働く力よりも強い力が働いています。そして、この極性がうんと大きくなると、分子間には極性分子間に働くクーロン力よりもずっと大きな力が働くようになります。これが水素結合です。

水素結合

水素結合ができる条件はH-F、H-O、H-Nの結合があることです。例えばHFやH2OやNH3などですね。

ここからは、水素結合について見ていきましょう。F、O、N、の3つは電気陰性度のトップ3です。それに対して、水素は非金属の中でもかなり電気陰性度が弱い元素です。したがって、これらの分子では、分子内にとても大きな極性が存在します。

フッ化水素/アンモニア/水

例えば、フッ化水素分子では、電子軌道にあった電子はフッ素原子に強く引き付けられてしまい、水素原子の周りには電子がほとんどない状態になってしまいます。

電気陰性度の違いにより、共有電子対はF原子の方に強く引き付けられている。

すると、この水素は近くにあるF原子の非共有電子対を一部取り込んで安定化します。つまりH原子が隣のF原子に配位結合的に結合するわけです。これが水素結合の正体です。

電子の不足したHは隣のFと配位結合的に結びつく(共有結合よりは弱い)⇒水素結合

ただし、水素結合はあくまで配位結合に似たメカニズムで生じるというだけで、結合の強さはずっと弱く、配位結合(共有結合)の10分の1程度です。でも、無極性分子間に働くファンデルワールス力よりは10倍くらい強い力ですから、水素結合を形成している物質の沸点は、無極性分子が集まってできる沸点よりずっと高くなります。

水分子とアンモニア分子

水分子やアンモニア分子間には上図のように水素結合が生じます。ひょっとしたら気が付いているかもしれませんが、この水素結合が生じる方向は決まっています。分子の形状で説明したように、非共有電子対は原子核の周りに均一に広がっているわけではなく、ある特定の方向に広がっています。水素結合はその広がりの方向にしか生じないのです。

水分子はこの水素結合のおかげで様々な性質を示します。例えば、液体より密度の低い固体等です。これは、水素結合が生じる方向が決まっているため、固体はスカスカで密度が小さくなってしまうからです。

実は、我々人類が地球上で生活できるのは、水分子が水素結合によって生じる性質のおかげなのですが、その話は次回にゆずることにして、今回はこのあたりで終わろうと思います。

平野 晃康

平野 晃康

株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師

昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。

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