医学部入試対策 物理の勉強法
1)力学を最初に押さえたら、後はどこからでも勉強できる。
物理のカリキュラムは、下図のような縦割りになっています。電磁気と原子は理解するのに力学を必要としますので、これらを学ぶ前には力学をやっておかなくてはなりませんが、波動や熱電気の分野は独立しているので、どこから勉強してもかまいません。
始めて勉強する人は、力学→電磁気→波動→電気→熱とやるように勧めていますが、波動が嫌いな人は波動の前に電気をやってもいいかもしれません。
教材は物理のエッセンスや橋本流解法の大原則といった優秀な参考書もありますが、物理は学校指定の教科書もなかなか良くできていますので(ただし簡単な教科書はよくないです・・教科書の難易度は、出版社のHPで確認できます。)まずは教科書の章末問題までマスターしてしまいましょう。
それだけでセンター試験レベルであれば解けるようになりますし、中堅私大医学部では明らかに教科書からとってきたような問題が出ることがあります。
とにかく物理は最初に力学を抑えてしまう事が何より大切です。そして、無闇に難しいものには手を出さず、教科書レベルをマスターする事です。あとはどこからでも好きなようにすすめる事ができます。そして最初に全範囲をざっくり抑えた方がいいでしょう。その後で、発展的なものに手を出していく事です。これはどの教科にも言える事です。
2)物理は少ない法則でいろいろな現象を分析する科目。
物理は数少ない法則でいろいろな現象を分析する分野です。最初に基本事項をマスターして、次に頻出のパターンを覚えたら、後は問題ごとに解法を考えて解いていくのです。覚えることが少ないので、何が起こっているのか?を考えることが好きな人や得意な人にとっては、短期間で力を付けることができる科目です。
例えば、力学で出てくる法則は
- ① 等加速度運動の公式
- ② 力の釣り合い(モーメント含む)
- ③ 運動方程式
- ④ 運動量保存則
- ⑤ エネルギー保存則
- ⑥ 等速円運動
- ⑦ 単振動の運動方程式
- ⑧ 単振子
- ⑨ ケプラーの法則と楕円軌道
たったのこれだけです。極端にいうと、①,②,④~⑨は運動方程式を解いた結果なので、高校の力学には1つしか法則がないのです。
これほど少ない法則を組み合わせて複雑な現象を解析しているわけですから、頻出のパターンは覚えるにせよ、暗記ではだめで、問題ごとに柔軟に対応する応用力が必要とされる科目です。数学の標準以上の問題を解くときに、問題の分析が必要だ、と言う話が出てきますが、物理は、「その分析の部分だけが問われる科目」なのです。
3)波動・原子では代表的な実験を理解して覚えておく。
2)では物理は問題の解き方をその場で考える科目と言う話をしましたが、波動(特に光学)と原子では有名実験がそのまま出題されます。このような有名実験は前もって押さえておいた方が良いでしょう。最も、これらの有名実験の理解をするのに必要な法則もほんの少ししかないのですが。
- 波動の有名実験
- ① 気柱の共鳴
- ② 弦の共鳴
- ③ ドップラー効果
- ④ 水面波の干渉
- ⑤ 全反射と光ファイバー
- ⑥ 薄膜干渉(縦方向・斜め方向)
- ⑦ くさび形薄膜
- ⑧ ニュートンリング
- ⑨ ヤングの実験
- ⑩ 回折格子
- ⑪ CDの原理
- ⑫ フィゾーの光速測定
- ⑬ フーコーの光速測定
- ⑭ プリズムによる光の分散
- ⑮ 虹の原理
- ⑯ 凸レンズと凹レンズ
- ⑰ 組み合わせレンズ
- 原子の有名実験
- ① 光電効果
- ② コンプトン効果
- ③ ブラッグ反射
- ④ フランクヘルツの実験
- ⑤ 水素スペクトル系列
- ⑥ ボーアモデル
- ⑦ 核分裂
- ⑧ 質量欠損
書きだすと意外とありますが、波動の、⑥~⑬はほとんど同じ問題ですし、ほんのいくつかの考え方だけで、こんなにたくさんの実験を理解できるのは面白いと思います。1日1実験覚えたとしても1か月かからずに終わります。これらは良く出題されるものばかりですから、かけた苦労の割に大きなリターンを得ることができます。
4)交流回路は抵抗・コイル・コンデンサ-での挙動を覚える。パターン暗記の側面も。
交流回路の問題は、抵抗、コイルと磁界に交流電流を流したらどうなるか?という知識とキルヒホッフの法則の2つでほとんど解くことができます。
ただし、考え方がちょっと複雑なので、前もって以下のパターンは覚えておくといいでしょう。むしろ、今まで私が見てきた問題ではこれらのパターンがかなりの頻度で出題されていました。これからもそれは変わらないでしょう。
波動・原子・交流回路はパターンだけで割と乗りきれます。ちょっとした努力で得意分野にすることができるのですから、しっかり頑張りましょう。
- ① R-L直列/並列回路
- ② L-C直列回路
- ③ L-C並列回路・電気振動
- ④ R-L-C直列・並列回路
- ⑤ R-L-C直列回路・インピーダンス
5)生物より平均点が高い、新課程になって一層その傾向が強くなった。
昔から、生物より物理の方が大学に受かりやすい、と言うのは定説でした。実際に、ある医科大学では合格者の75%が物理選択だったこともあります。
この流れはますます加速しており、新課程になって生物が大幅に難化したことから、2015年度のセンター試験では平均点が10点も違うという事態になってしまいました。
ただし、物理は、少ない法則を応用していろいろな問題と解く科目、逆に言うと、応用して考えることが嫌いな人や現象のイメージがつきにくい人は努力してもなかなか点数が伸びない科目なのです。ですから、いくら物理の方が、合格実績が高い。平均点が高いからと言ってむやみに飛びつくのは危険です。
自分が物理を好きかどうか、良く胸に手を当てて(笑)考えてから選択することにしましょう。勿論、生物も物理もどっちも同じくらい好き、あるいは同じくらい嫌い。と言う場合は、物理を選択することをお勧めします。
6)どの問題集をゴール地点にするか。
ズバリ、私立大学医学部なら志望校の過去問です。これは、私立大学医学部の物理の問題を解いてみるとわかりますが、市販の教材とちょっと違うひねり方をしている大学がほとんどです。例えば、藤田保健衛生大学など、物理の本質を分かっていないと解けないような問題がずらっと並んでいます。正直なところ、偏差値に対してオーバーキルな内容の問題で、解説をしていてびっくりさせられることがあるほどです。
過去問一歩手前の問題集として、中堅私立大学医学部なら、重要問題集のA問題と、B問題に入っていてパターン問題になっているものまで、あるいは駿台の理系標準問題集や教学社の体系物理などそのあとはひたすら過去問を繰り返し解いて独特のひねりに慣れていく、と言うのが私立大学医学部の受験対策です。
上位私立大学なら、標準問題精講や重要問題集のB問題などのやや難易度の高い問題にも当たっておくべきでしょう。やや古いですが、難問題の系統もけっこうまとまった問題集です。分厚いので高3になってから始めたのでは仕上がらないと思いますが……。このような難易度の高い問題を解くときは、時間を掛けてじっくり考えることが大切です。(数学の難問を解くときに似ています。)基本事項がどうやって組み合わさっているのかを見抜く練習です。
国立大学は、他の理工系学部と同じ問題が出題されるため、私立大学医学部のような独特のひねりがきいた問題は少ないです。そのため、過去問を焦るより、市販の問題集をしっかり仕上げる方が良いでしょう。また、センターの物理は満点が狙える科目ですので、ここで無駄な失点をしないよう、気を付けなくてはいけません。
地方国立なら、中堅私立大学医学部と同様に重要問題集のA問題まで、あるいは駿台の理系標準問題集や教学社の体系物理など。難関大学なら、重要問題集、新・物理入門問題演習、駿台理系標準問題集などを一冊完成させた後、仕上げに河合塾理論物理への道標や難問題の系統などで腕を磨いてから過去問演習をしっかりやっておくと良いでしょう。本質的なところから物理を抑えたい人は、大学への数学の入試物理プラス、などもいいと思います。