合格体験記 A.K君 九州大学医学部医学科1年生②
中学校入学と、勉強の原体験
私はある歯医者の家に生まれた二人兄弟の兄の方である。両親は共働きで帰りは遅い方だった思う。小学校は地元の公立小学校に入学した。小学校3年の夏に、家のガラスを突き破り左腕に60針ほどのけがをして5日間入院した。そのときにあまりにも暇で退院してもしばらくは外で遊んだりできないので、親のすすめで日能研という塾に入った。
私の勉強スタイルの基礎は日能研で育まれたのだと思う。はじめは中学入試など興味はなく、ただ先生の授業が面白かったので通っていた。日能研は、今思えば珍しいと思うが、予習を課さず復習に大きく力を入れるというシステムだった。毎週日曜日の午前中に復習テストがあり、そこで授業で解いた問題と同じような問題が出るので、授業で解けなかった問題は復習教材なども使いながら解けるようにしていた。この習慣を通して、一度やった問題は解けるようにするということが確実にできるようになったと思う。
中学校で最初に受けた印象
中学に上がる前、日能研のすすめで中高一貫校の久留米大学附設中学を受験し、合格を勝ち取ることができたのだが、附設中に入って驚いたことが二つあった。
一つ目は、勉強に予習が必要であること。今思えば当然だが、日能研で予習というものを知らずに過ごした私にとって予習が何のためにあるのかわからなかった。よくよく考えてみると、まだ何もわからない小学生だったから予習しようにも限界があったのだ。それで予習がなかっただけのことで、基本的に、授業で先生に新しい解き方や考え方を学ぶ上で事前にどのような問題か理解しておく必要がある。予習はそのために必要なのだ。幸運なことに予習しないと間に合わないようなスピードで授業が進むので、予習せざるを得ない状況だった。この中で予習の重要性に気づくことができた。
二つ目は、同級生がみな頭が良いことである。これは成績が云々と言うことだけではなく、やたら暗記力が良いだとか、同じ説明を聞いても「じゃあこういう問題では…」とさらに質問できるほど理解力と応用力が高いとか、周りの人間のスペックの高さに驚くばかりであった。小学生の頃は狭いコミュニティの中の中学入試というさらに狭い枠の中でちやほやされていたが、附設に入ってみて自分が凡人だということにやっと気づいたのだ。それからは謙虚にこつこつ勉強するしか彼らに追いつけない、という気持ちになった。
幸運だったのは、かなり早い段階で自分がどれくらいの時間あればどのくらいの勉強ができて、どのくらいの勉強をすればどのくらいの点数になるかが自分の中でまあまあ把握できるようになったことである。これがわからないといくら勉強の計画を立てても大崩れしてしまう。謙虚な気持ちになって、自分の力を過信して手を抜くことなく、潔く勉強するしかないと思って最初の時期に頑張ったことが良かったのだと思う。
附設中でのスタートは幸運にも調子がよかった。中学校3年間を終え、エスカレーター式に附設高校に入学した。中学生活は順調だったのだが、エスカレーター式であることで、私の中に油断や甘えが生じていたのだろうと思う。最初に感じた熱さは、いつしかぬるま湯になっていた。ここで高校入試を受験して新しく50人同級生が増えた。
高校に上がって、外部生からの刺激
私はまた驚くことになる。高校入試をくぐり抜けてきた新しい同級生たち(外部生)は中学からの持ちあがりである私たち(内部生)とは比べものにならないくらい勉強量と勉強時間が多かった。テストの成績は外部生が上位を独占し、生まれ持った才能をきちんと努力で磨いてきた一部の内部生だけがその中に食い込めた。ぬるま湯と感じていた私は、入り込むことは出来ず引き離される側に回ってしまった。
大学受験という言葉を意識し始めたのはこの頃である。高校1年が始まってすぐに襲いかかってきた危機感、さらに部活や委員会の先輩が高3になり受験モードに入ったことがきっかけになった。大学受験はまだ三年後だな、というようなおぼろげな感覚ではあったが、勉強の方に本腰入れないといけないな、と思った。医学部に入りたいという志望を持ったのもこのころだった。前に述べたように、大学受験がどうであるかというのとは別に、学校の生物の授業を受けて面白いな、とても興味あるな、と思ったからだ。あまり医学部に関する知識もなかったが、受験に合格することは大変らしいというのは聞いていたので何はともあれ頑張ろうということ決意し、中学の時以上に勉強するようになった。 部活、委員会の関係で良い先輩や内部生、外部生に恵まれたおかげで勉強に対するモチベーションを失うこともなくその後の高校生活を過ごすことができた。
勉強で大事な「感覚」
はじめは成績も横ばいではあったが、自分の中にある手応えや感触のようなものを信じて地道に勉強していた。すると、少しずつ成績は上がっていき、そして安定した。中学の最初に自分の勉強がどれほどの点数になるかという感覚がつかめていたことが大きかったと思う。このような感覚は基本的に、何度もテスト勉強の中で計画を立てては失敗し、また計画を立ててテスト受けて、の繰り返しの中でだんだんわかってくるものだと思う。私も最初はだいたいこれくらい、という程度の感覚であり、高3の最後まで感覚を磨いていた。
ここで感覚などというなんとも曖昧な話を持ち出したのは、どれくらいの時間、量の勉強でどれくらいの点数になるかという感覚は、受験直前になればなるほど必要になる感覚だからである。受験直前になると勉強は追いつかず、復習したり解いたりしなければいけない問題集はひたすら溜まっていき、時間的な余裕は全くなくなる。そのような状況では、どのように勉強するのが一番効率的に理解を深め、点数に結びつけられるかを見極めるのがきわめて重要である。このように、普段のテストからきちんと計画を立てて、テストを受けてそれを修正して、というのを繰り返して、早い段階でこの自分の勉強の感覚をある程度わかるようになると後々勉強しやすくなると思う。