川崎医科大学では、建学の理念「人間(ひと)をつくる 体をつくる 医学をきわめるの実践のため、開学当初から欧米へ教育システムの視察団を派遣し、視聴覚教材を充実させるなど、先進国をリードする教育体制を講じてきた。

また、教育体制だけではなく、学生一人ひとりをきめ細かくフォローする体制も構築している。

川崎医科大学の学生指導について、学長補佐 森谷 卓也 教授にお話を伺った。

――学生は10代後半~20代前半が多く、彼らは非常に多感な時期ですが、それだけにさまざまなフォローも必要だと思います。
森谷:

川崎医科大学では、入学した学生を少人数のグループに分けて、1グループに2名のチューターを配置しています。チューターは主に教授・准教授・講師が担当していて、私も担当のグループを持っています。

少人数グループは、同じ学年ではなく、1年生から3年生の各学年2~3名ずつ計7名程度を1つのグループにしています。4年生から6年生も同じようにグループを編成します。この方式により、チューターは3年間継続して学生の学修や生活を把握することが可能で、きめの細かいフォローにつながっています。また、上級生が下級生の面倒を見ることができ、屋根瓦方式という医療界で古くから実践されている教育システムとも共通しています。

――チューターと学生の交流は
森谷:

おそらく、他学部とは異なり、相当密度が高い交流をしています。メールのやり取りは頻繁に行っていて、必要に応じて面談をして様子を聞いたり、アドバイスをしています。また、担当するグループの学生の様子や成績は常に把握していますので、気になる学生にはすぐに連絡を取るようにしています。

――そういえば、学生とすれ違うと、向こうから挨拶していますね。
学生指導
学生指導
森谷:

先ほど学内をご案内した時ですか。偶々あの学生は私のグループの所属でしたが、そうでなくても学生が教員をよく知っているので、挨拶してくれます。学生はチューターに限らず教員に電話やメールで学習相談をすることもできますし、実際に相談にもきます。大学の教授というと、敷居が高いというか、学生にとっては近寄りがたい存在のように思いますが、川崎医科大学はそうした敷居がかなり低いですね。

――敷居を低くするための工夫をされている。
森谷:

普段から声をかけたりするようにしています。チューター以外にも、各学年の学年担当1名と副担当2名ないし3名がおり、学年全体の様子を把握しています。さらに、各学年の学生には総務委員という学生代表が数名おり、学年全体の意見を集約して定期的に学長以下大学教職員と意見交換を行っています。相談できる担当教員が明らかにされていることと、学生の意見が反映される運営も、敷居を低くするために役立っていると思います。

――それでも心配になる子はいる。
森谷:

やはり、多感な時期ですし、医学教育には厳しい側面もあるので、問題を抱えてしまう学生もいます。また、我々には言いにくい悩みもあるでしょうし、我々が答えにくいこともあると思います。そういう悩みについては、学生生活支援センターを配備しており、専任の看護師が常駐しています。また、希望者は専門のカウンセラーによるカウンセリングを受けることもできます。

――医学部はどこでも留年者が多いですが、成績について、保護者が心配することは。
森谷:

そうですね。川崎医科大学でも、毎年一定数留年者が出ています。1年生から寮生活ですし、全国から学生が集まってきますから、遠く離れた保護者は心配なことも多いと思います。

川崎医科大学では、学長、教務担当副学長、各学年担当教員が毎年全国15か所以上を回り、その地域出身の学生の保護者に対する講話と個人面談を行うという地方保護者会を毎年行っています。一人ひとりについてきめ細かい面談をすることで、保護者と今の成績や生活の様子などの情報を共有しています。

――留年者に対してのフォローは
森谷:

留年者には注意しています。大学に入れたということは医師になる能力と資質は十分あるということですから、問題点を解決し、正しい方向に戻れるようフォローしています。ただ、それでも留年をしてしまった場合は、保護者を交えた面談を行うとともに、学年によっては春休みなどに合宿を組んでいます。

――学生が要望を出したりすることは。
学年代表者会
学年代表者会
森谷:

各学年の代表である総務委員と大学教職員との全体ミーティングは年2回行っています。ここでは学生が要望を出すことができ、最近では、授業間の休憩を10分から15分にするなどの改善がありました。10分では、トイレが混雑した場合などに授業に遅れることがあったからです。このほかにも、4学生、5学生の代表各1名がカリキュラム委員会の中に入り、授業などについての意見を出すことができます。それ以外にも、学年ごとに総務委員と学年担当教員は、日頃から密に連絡を取り合っています。

このようなことを通じて、学生の要望をくみ取ると同時に、学生が当事者意識を持つことができるようにしています。

森谷 卓也

川崎医科大学 学長補佐
森谷 卓也 教授

日本病理学会 病理専門医
日本臨床細胞学会 細胞診専門医
川崎医科大学 病理学2教授、同窓会長

[経歴]
川崎医科大学卒業、川崎医科大学病理、米国ジョージワシントン大学病理での修行ののち、川崎病院、東北大学病院病理部 副部長、東北大学医学部 准教授を経て現職