社会のグローバル化にともなって、海外の大学に進学を希望する受験生が増えています。医学分野においても海外志向は高まっており、日本の大学ではなくサイエンスの標準言語である英語で医学を学び、国際的に活躍できる医師になりたいと考えている方も多いのではないでしょうか。東欧・ハンガリーにある4つの国立大学医学部(センメルワイス大学・ペーチ大学・セゲド大学・デブレツェン大学)では英語による医学教育を実施しており、2006年から日本の学生を積極的に受け入れてきました。卒業時の医師国家試験に合格すればハンガリーの医師国家免許が取得でき、これはEU圏内でも医師免許として承認されています。

また2014年にはハンガリー政府による奨学金制度がスタートしたことから、ハンガリーの医学部進学が注目を集めています。奨学金を利用した場合、日本の国立大学医学部より経済的な負担が軽減されることが多いそうです。

今回はハンガリーの医学部で日本人医学生の育成をサポートしてきたハンガリー医科大学(以下HMU)事務局の理事の方々と、現在ハンガリーで医学を学ぶ4名の学生でオンライン座談会を開催し、実際の留学生活について語っていただきました。

ハンガリー医科大学事務局 座談会 インタビュアのご紹介

清泉女学院高等学校卒
ペーチ大学4年生
石田 幸
日本医学教育評価機構(JACME)常勤理事
東京医科歯科大学名誉教授
順天堂大学客員教授
奈良 信雄
米子東高等学校卒
デブレツェン大学4年生
時光 茂樹
岡山大学医学部教授
松川 昭博
筑紫丘高等学校卒
セゲド大学2年生
郷田 幸代
横浜雙葉高等学校卒
センメルワイス大学1年生
岡 桃子
HMU 専務理事
石倉 秀哉

※学年及び肩書は2022年1月現在のものです。

「海外にも選択肢がある」大きく広がった可能性

――(司会・石倉氏):

みなさんはどんなきっかけでハンガリーに行こうと思ったのでしょうか?

石田:

私のきっかけは高校時代にスウェーデンに1年間留学したことです。もともと理系で医学を学びたいと思っていたのですが、海外で学ぶことにも強い関心を持つようになりました。医学部に進学するか国際系学部に進んで留学するかかなり悩んでいたところ、HMUのことを知って「これしかない!」と思いました。

時光:

僕は、高校時代に南米のパラグアイに留学していました。当時は部活に熱中していてあまり進路について深く考えていなかったのですが、発展途上のパラグアイと日本との環境の違いにいろいろ考えさせられて、将来は海外で働きたいと思うようになりました。そこで世界のどこでも必要とされる仕事について自分なりに考えたところ、思いついたのが医師だったんです。海外で働ける医師になりたい一心でいろんな進学先を調べて、HMUを見つけました。

岡:

私は父が医師として働いており、勤務先の大学病院で研修していたHMUの卒業生がとても優秀だったと聞いたんです。そこで初めて説明会に行ったのが中学2年のことでした。高校時代は課外活動で英語にものめり込み、「だったら海外の大学に行って英語で医学を学ぼう」と思ってハンガリーに行くことに決めました。

郷田:

皆さんと違って私は留学経験がなく、英語も全く話せなかったです。国公立大学の医学部志望で浪人していたのですが、それでも心のどこかで「日本に留まらず世界で働いてみたい」と思っていました。そんな時に共通の友人を介して、いま通っているセゲド大学の先輩と知り合う機会があり、いろんな話を聞かせてもらったのです。そこでHMUという選択肢を初めて知って、説明会に行きました。

試験が多い?進級が厳しい?海外のリアルな勉強事情とは

――:

日本と比べると、海外の大学は勉強が非常にハードで進級も厳しいと聞いています。みなさんは普段どのように勉強に取り組んでいるのでしょうか?

郷田:

日本の医学部に通う友達からは、試験期間になってから勉強を始める学生が多いと聞きましたが、こちらではまず通用しないと思います。セゲド大学は中間試験がとにかく多く、1科目につき2〜3回行うこともあります。1セメスターにそれが何科目もあるので、ときには週に2〜3回もテストを受けるのもめずらしくありません。そんなときは1日の予定が朝から晩まで勉強で埋め尽くされていますね。またこれらをパスしないと進級試験を受けられない教科もあるので、学期中はみんな必死で勉強しています。とは言え試験にはリテイクもあります。だから1回目で落ちても動揺しない打たれ強さ・楽観性も必要だと思います。不安だからと試験を先延ばしせず、「失敗しても次がある」という気持ちを持っている人のほうがすんなり進級していくイメージがあります。

時光:

自分はもう学年が上がって4年生ですが、1〜2年生のころは確かに中間テストが多くて勉強はものすごく頑張っていました。でも、いま振り返ってみるとデブレツェンでは2年生後期・3年生が一番しんどい時期でした。だから苦しかったけど、あれだけ勉強していなかったら辛い時期を乗り越えられなかったと思います。

石田:

私も先輩から勉強は毎日やることが大事と聞かされました。向上心を持って日々の勉強を積み重ねていくことが必要ですね。そして、やるだけのことをやったら試験を受けてまずアウトプットしてみること。試験を先延ばしにするとチャンスも少なくなるので、ある程度準備したら割り切って受けた方がいいと思います。また勉強は自分一人だけではなく、友達と一緒に勉強して教え合うようにしています。試験には口頭試問もあるので、相手がいるとプレゼンテーションの練習にもなります。

岡:

私は大学1年生が終わったばかりですが、自分の勉強法を早く確立させることが大事だなと実感しました。全ての教科を同じ力量で勉強していたら、とても間に合いません。「この科目はこの教材でこの量を1週間やる」などを早くに決めて、それを淡々とこなしていました。高校時代から変わったのは暗記のやり方ですね。いまは単純に丸暗記するのではなく、なるべく関連するものとつなげて覚えるようにしています。中間試験の内容も期末試験に含まれているなど、結局1年を通して覚えている必要があるからです。前後のプロセスとの関連も意識するようになりました。

――:

奈良先生は世界20数カ国で医学部の学生を見てきた経験から、何か皆さんにアドバイスはありますか?

奈良先生:

日本の学生と比較して全般的に海外の大学生は勉強熱心で、なかでも医学部の学生は非常にモチベーションが高いんです。日本ではクラブ活動やアルバイトをする医学部生はめずらしくありませんが、海外の学生にアルバイト事情をたずねると「アルバイトで小銭を稼ぐ時間があるなら、もっと勉強して早く医者になって稼いだ方がいい」と言われるほどです。そんな学生の違いを見ていると、いずれ日本は置いて行かれやしないかと心配になりますが、今日参加している皆さんはよく頑張っていますね。あと先ほど「勉強は友達と一緒にする」という話がありましたが、海外では学生同士のピアレビューが盛んです。日本ではあまり見られませんが、「君はここが良い」「ここはもう少し勉強した方がいい」と評価し合うことは双方に気づきが多くて素晴らしい習慣だと思うのですが、ハンガリーではどうですか?

時光:

デブレツェンでは病院実習などで学生が集まると、あるトピックについてみんなで意見を出し合って、お互いに「あなたの意見のここはこうじゃない?」と指摘し合う場面はけっこうありますね。おっしゃるとおりアウトプットしながらお互いの知識を確認し合うのはとても勉強になるし、刺激にもなっています。

コロナ禍のキャンパスライフ、授業やワクチンはどうなった?

――:

世界がコロナ禍に突入して2年目となりましたが、みなさんは現在どのような学生生活を送っていますか?授業のやり方やワクチンの状況などについても教えてください。

時光:

今年度はデブレツェン大学の意向で対面授業を増やす予定でしたが、途中で感染者数が増加して再びオンラインに戻りました。みんな慣れたのか最初の年ほどの大きな影響はなく、学生もすんなり受け入れたと思います。また大学からワクチンに関するアナウンスがあり、僕は4月と5月で2回の接種を終えました。市の発行するワクチンカードを持っているので、大学や街中への行き来など比較的自由に行動できています。でも公共交通機関やお店ではマスクの着用を求められますし、5月に行われた試験の口頭試問も参加人数を減らして距離を取り、マスク着用で行いました。

石田:

ペーチ大学では教科によって対応が異なりました。薬理などすべてオンラインになった授業もあれば、対面とオンラインの授業を隔週で交互に行う教科もありました。ただワクチンを受けていない学生もいますし、感染状況も悪化したので結局ほとんどの授業はオンラインになったという感じです。試験は大学に来てオンラインで受けるインハウス方式など、いろんな形態で対応していましたね。

郷田:

他の大学と同様に、セゲド大学でも実習は対面・講義はオンラインに分かれていました。どの授業も徐々に対面化する予定でしたが、こちらも感染状況の悪化でオンライン授業は続行し、試験も完全にオンラインで行いました。

岡:

センメルワイス大学では9月に学期が始まってからずっとハイブリッドでしたが、1学期の終わりの試験はオンラインでした。うちの大学はワクチン接種に早くから取り組んでいて、私は2月に2回目の接種を終えました。2月の2学期はハイブリッド授業で始まりましたし、直近の試験期間は対面で実施しました。これはワクチンへの取り組みや対面を重視する大学の強い姿勢があったように思います。

――:

4年生の時光さん・石田さんは基礎医学から臨床に進むタイミングでしたが、病院の実習などに影響はありましたか?

時光:

今期の最初の方では臨床科目の実習で病院に行くことができましたが、途中で感染状況が悪化して行けなくなったことがありました。病院側はオンライン実習の機会を作ってくれましたが、やっぱり患者さんに会えないというのはやりづらさを感じます。

石田:

ペーチ大学でも病院に行くことができなくて、患者さんになかなか会えない時期が長かったです。その期間の勉強ができてなかったことに悔しさはありますね。どこかで取り戻したいと思っています。

――:

松川先生・奈良先生が教えている日本の大学では、どんな状況だったのでしょうか。

松川先生:

昨年の日本における第一波では、岡山大学では基本的にキャンパス立ち入り禁止・実習はオンラインとなりました。岡山県に緊急事態宣言が出ていたときは「学外実習は県内のみOKで県外はNG」などの縛りがありましたが、いま現在はかなり平常化しています。講義は基本的にオンライン、臨床系・基礎系ともに実習は完全対面です。また大学が定めた首都圏1都3県・北海道・沖縄・海外などを含む多発発生地域での実習についても、いまはワクチン接種済みであれば行けるようになり、岡山に戻ってからの2週間待機とPCR検査は不要になりました。新学期以降はまた状況を見ながら調整していくことになりますが、1年生にはなるべく対面の授業を取り入れて、学生同士や先生と会う機会を作ってあげたいと思っています。

奈良先生:

順天堂大学でも同様に、昨年の4〜6月くらいはオンライン授業で実習はストップしていました。現在までに少しずつ解除されてきて、三密を避けるようなやり方で対面講義をしたり、クラスの人数を分けてハイブリッドで授業を行っています。順天堂には6つほど分院があって実習はそれをローテーションする方式でしたが、いまは感染状況を鑑みて本院を中心に臨床実習を行っています。

メンタルヘルスを守った、友達・家族とのつながり

――:

ハンガリーでも日本でも、大学側もかなり試行錯誤されたようですね。そのなかでも現在1年生の岡さんは、予備コースのために昨年1月にハンガリーに渡りました。渡航直後のコロナ禍で、苦労も大きかったのではないでしょうか。

岡:

予備コースは約4か月あるのですが、最初の2か月は授業に行けたので友達もできましたし、勉強の仕方もだんだんわかったように思います。残りの2か月はオンラインになってしまいましたが、オンラインだから大変というよりは英語や勉強についていくことの方が大変でした。何かあったら相談できる友達が現地にもできましたし、勉強や生活面、対人関係でもいろいろ助け合いながら、ここまでは楽しくやってこれだと思います。

――:

他のみなさんは、コロナ禍の海外生活でどのようにメンタルヘルスを維持してきたのでしょうか?

郷田:

この1年の前半は夜8時以降の外出制限があったので、1日中家で独りで授業を受けたり勉強したりで夜に外出することもできず、閉じこもっている生活でした。かえって勉強のペースも乱れてしまって、その時に仲間の大切さにあらためて気づきましたね。それ以降は同期の友達と頻繁に連絡を取り合っています。時間を決めてZoomをつなげて一緒に勉強して、つながり合うことで生活のリズムを保てていたように思います。社会が元に戻り始めてからも友達とお互いの家で勉強したり、ご飯を食べたりしています。時にはレストランに食事に出かけるのもいい気分転換になりますし、気晴らしをしつつ勉強もしっかりやる、というバランスが取れていればメンタルは保てると思っています。また日本の家族や友達ともLINEやビデオ通話で連絡を取っているので、それも安心感につながっていますね。

石田:

私も現地の友人や一緒に勉強する仲間といった、一緒に息抜きしたり話ができる相手の存在が大きいです。もちろん家族にも話すのですが、現地の友達の方がお互いの状況がわかっていて気持ちを共有しやすいので、悩み事や辛いことがあったときは現地の友達に話すことが多いですね。なかにはハンガリー人の友人やクラスメートもいて、日本人には話しづらいことを聞いてもらうこともあります。

時光:

いま僕は日本人学生3人でルームシェアをしているので、何かあったら同居の2人に相談しますね。他にも何でも話せる仲の友達が現地にいるので、本当に悩んだときは気持ちをぶちまけて聞いてもらうこともあります。あとは日本の友達や家族の存在も自分にとってはすごく力になっているので、僕も普段からよく連絡を取っています。大学にもメンタルサポートの部署がありますし、先輩が後輩に勉強面や生活面のサポートをするようなインターナショナルの学生グループもあったり、大学内でカバーし合う仕組みがいくつかあるようです。僕自身はまだ利用したことはないですが、留学生の友達が相談してみて「いろんなアドバイスをもらってすごく楽になった」という話を聞いているので、機会があれば利用してみたいです。

――:

日本でも同様にキャンパスに行けず鬱や不安を抱える大学生がいたのではないでしょうか。

松川先生:

こういう悩みはどこにいてもつきものだし、いろんな悩みを抱える世代でもありますよね。僕は悩みがあればとにかく溜め込まず、吐き出すことが一番の解決策だと思います。自分をさらけ出して泣きたいときは泣くなど、感情を外に出すことが大事ですね。私の部屋に学生が来て泣いていくこともよくありますよ。みんな心なしかスッとした顔で帰っていきますね。奈良先生 日本の大学にも学生相談室で臨床心理士や精神科の先生によるカウンセリングを受けられるところもあるようです。ハンガリーはそういうサポートも手厚く支援しているようですし、学生間の交流による解決というやり方もあるというのは心強いですよね。

「現状の自分」ではなく「やる気と覚悟」を重視 

――:

最後に今後の抱負や、医学部進学を志望している受験生にメッセージをお願いします。

時光:

いまはコロナの影響であまり活動できていないのですが、僕は大学のサッカーチームでキャプテンをやっています。もちろん勉強が第一ですが、チームを通じて先輩と後輩、そして横のつながりも生まれます。学生同士で情報を共有したり勉強の場を設けたり、悩みの相談をし合うこともできるので、後輩にはこうした場をうまく活かしてほしいですね。そして自分もそういう行動を示すことで、下の学年につなげていきたいです。またHMUに興味をもった受験生の方がいれば、ぜひ挑戦してみてほしいです。自分もやる気と覚悟だけでハンガリーに来ましたし、根性と勢いで4年生まで上がって来ました。日本とは違った環境で人間として大きく成長できる機会になると思います。

石田:

HMUのプログラムは、やる気があれば年齢もあまり関係ないと思いますし、進学校であるかどうかも関係ないと思います。自分が決めたことにしっかり取り組める方、そしてコツコツ勉強できる方なら、ぜひともチャレンジしていただきたいです。視野も大きく広がりますし、将来チャンスも増えると思うので、ぜひ一緒に頑張りましょう。

岡:

私も高校生の時はとても不安でした。でもいざハンガリーに来てみて、毎日自分で努力を重ねていったら1年生を終えることができています。英語で医学を学んでみたいという人には、ぜひ来てほしいと思います。HMUのスタッフの方にはとても手厚くサポートしていただいたし、親もそれが安心だったようなので、みなさんにお勧めしたいです。

郷田:

私は高校時代、物理・化学を選択していて生物の知識はなかったですし、英語も話せませんでした。それでも根性で乗り切っていままでやって来れたと思います。だから本当にやる気と医師になりたいという強い気持ちがあれば、ぜひトライしてみてほしいです。資金面では奨学金がありますし、最初の1年で必死に勉強して奨学金を取るからと、親を説得してみるものいいのではないでしょうか。セゲド大学では音楽好きの学生がバンドを組んでライブをやったり、週末はテニスやサッカーをやったりと、気分転換を楽しんでいる学生もたくさんいます。一緒に学べる後輩の方が増えるとうれしいです。

――:

ありがとうございます。最後に理事のお二人から感想をお聞かせください。

松川先生:

今日参加のみなさん、上手に息抜きしながらも毎日本当に勉強を頑張っている様子が伝わりました。でもこの学びというものは、間違いなく卒業後も続いていきます。みなさんはそれを海外で行っているというのは、もっと幅広い多様性や、価値観、文化も一緒に吸収しているのですね。これから先も継続していただければ、間違いなく日本だけでなく世界中で通用する医者になれると思います。くじけそうな時は先輩や後輩、友達を頼って頑張ってください。

奈良先生:

私も理事としてみなさんを面接したかもしれませんし、留学経験のない方や英語に自信がないという方も見てきました。もちろん心配はしてきましたが、みなさん本当にたくましく、そして楽しくやっている様子がわかって安心しています。日々の勉強は大変ですが、留学中は東欧の文化にも触れながら、楽しく毎日を過ごしてほしいと思います。今日はありがとうございました。