ここからは浸透の分野の発展として、細胞を溶液に浸したときの変化を学習していきます。まず、細胞膜は半透膜の一種であることを押さえてください。つまり、細胞膜の内外で仕切られた溶液の濃度に差があった場合、浸透が起こるのです。これがこの章ではとても大事な考え方になります。

続いて溶液の種類について学びます。細胞内の液体の浸透圧と比べて、浸透圧が低い、同じ、高い溶液のことをそれぞれ低張液等張液高張液といいます。…と言うのは簡単ですが、浸透圧が低い高いとは一体どんなことを表しているのでしょうか。ここでイメージをつかむために浸透圧の定義に戻ります。浸透圧とはコーヒーが移動する先にかかる力でした。これを言い換えて浸透を受ける側にかかる圧力とも捉えることが出来るのでした。ですから、「浸透圧が高い」とは「浸透を受ける側がより強く水を引っ張ること」を言うのです。つまり、浸透圧の高い溶液と低い溶液を半透膜で仕切った場合、水は浸透圧の低い方から高い方へ移動することになります。イメージが湧いて来たでしょうか。

ここでさらに理解を深めていきましょう。濃度の濃い溶液と薄い溶液を半透膜で仕切った場合、水は濃度の薄い方から濃い方へ移動するのでした。これは上で見た浸透圧の引く方から高い方へ移動するのと方向が一致していませんか。つまり、浸透圧の高低と濃度の濃淡は一致するのです。ですから、浸透圧の問題が出てきたら、いったん濃度の濃淡を考え、さらに「浸透1 浸透とは」の章で述べたような考え方で解けるのです。

さて、溶液の種類について理解したところで、いよいよここからは細胞を溶液に浸したときの変化について考えていきます。

まず高張液に浸したときの変化を考えましょう。これまでの考え方を使えば、

張=細胞内の溶液よりも濃度が高い→水は細胞へ移動→細胞はしぼむ

と非常にスマートに考えることが出来ます。また、低張液に浸したときは以下のようになります。

張=細胞内の溶液よりも濃度が低い→水は細胞へ移動→細胞は膨らむ

これもまた単純明快に考えることが出来ます。

最後に、等張液についてです。

張=細胞内の溶液と濃度が等しい→水は細胞内外へ同じだけ移動→細胞は変化なし

ここで注意してほしいのは、「細胞の大きさに変化がない=水は動いていない」ではないということです。溶液の浸透圧に関わらず、常に水は細胞を出入りしています。このバランスが細胞外へ出る側に傾くのが高張液、細胞内へ入る側に傾くのが低張液に浸した場合であり、ちょうどバランスが取れて細胞に出入りする量が等しくなるのが等張液なのです。

低張液のなかでも、蒸留水は究極の低張液です。なぜなら、蒸留水には何も溶けていないので浸透圧がとても低いのです。蒸留水に細胞を浸すと、細胞に水が入り過ぎてついには破裂してしまいます。このとき、赤血球が破裂することを特に溶血と言います。