全体的には高難度だが、出題のされ方は学校によってさまざま

皆さんは、「私立大医学部の数学」と聞いてどういうイメージを持つでしょうか。恐らく、人によってかなり違うのではないかと思います。言うまでもないことですが、昨今の根強い医学部人気に支えられ、私立大医学部の入試の難易度は「高止まり」ともいえる傾向にあります。が、少なくとも数学だけに関して言えば、入試(全体)の難易度に即したレベル・分量の問題が出題されているとはいえない大学も見られます。また、出題傾向や出題形式も、個々の大学によって大きく異なっています。このことは、「私立大医学部の数学」をひとくくりに捉えにくくする原因の1つといえます。

筆者は、これまで出題された私立大医学部の入試問題に目を通し、その印象から、出題された問題を大きく次の4つに分類しました。

A:記述問題で、難関国公立大医学部と同レベルの、抽象度が高い内容などを扱ったもの

B:記述問題で、国公立大医学部でよく出題される、場合分けや計算が煩雑なもの(主に数学Ⅲ内容)

C:短答・穴埋め・マーク式問題で、Bと同レベルのもの(主に微・積分法や場合の数・確率など)

D:短答・穴埋め・マーク式問題で、入試基礎~センターレベル程度の小問(主に方程式・不等式)

これらA~Dの問題のうち1種類のみを出題する大学もあれば、何種類かをミックスして出題する大学もあります。中堅~上位の私立大医学部によく見られるのが、CとDの混合です。小問集合としてDの問題を出題して基礎学力を測り、Cの問題で差をつけたいという意図が感じられるほか、採点基準も客観的になります。上位~難関の私立大医学部になると、A(またはB)とCの混合も増えますが、やはり国公立大医学部の受験者層を取り込みたいという意図があるのでしょう。さらに、多くの大学では数学Ⅲを出題範囲に含みますが、数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bのみで受験できる大学も少数ですがあります。数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bのみで受験できる大学は、文系・理系を問わず幅広い受験生を集めようという意図を持っていると考えられます。他にも挙げればきりがありませんが、考えてみれば当たり前のことです。個々の大学によって、ターゲットにしている受験者層があり、それによって出題内容・形式も決まってくるというわけです。

もっとも、昨今は私立大医学部の受験者層も全体的にレベルアップする傾向にあり、少なくとも数学に関して言えば、Dの問題はもちろん、B・Cの問題でも入試基礎レベルに近いものではミスが許されず、差がつけられなくなってきています。そこで、一部の大学では出題形式・難易度を受験者層に合わせて変えようとしているようです。ただ、出題傾向を大きく変えると、対策するのに過去問が参考にならないなどの理由で、受験生に敬遠されやすくもなってしまいます。そこで、考えられる「落としどころ」の1つが、問題の分量を全体的に多くしたり、「ひねった」問題の割合を高めたりして、それらを解答時間内に解ききれるかどうかで差をつけるといったあたりのことになっているのではないかと、筆者は勝手に推測しています。

志望大学・学部を決めたら、出来るだけ早い機会に一度、過去問集に目を通しておきましょう。

皆さんはどのようなライバルと戦うのか

先ほど「受験者層」の話が出てきましたが、皆さんのライバルとなる受験生は、高校数学をどのように学習してくるのでしょうか。少々頭に入れておきましょう。

上位(国公立大と同等レベル)の私立大医学部を受験しようと考えているならば、国公立大医学部の志望者が高校(と中学)で何をどのように学習してくるか、想像してみましょう。例えば、中学受験を経て一貫校に入り、以降もダブルスクールといって塾や予備校にも通ったりしながらみっちり入試対策を行ってくる層。教科書学習時から1年2年先取りして学習するのはもちろん、さらに数学が得意であれば教科書学習時から入試基礎~標準レベルの重要テーマにはひととおり触れているでしょう。数学Ⅲまで教科書学習を終えるのが高2の終わりとしても、約1年間を、志望大学・学部に照準を合わせた学習にあててきます。もしくは、公立トップ校に入学し、やはり塾や予備校、市販の参考書・問題集などをうまく活用して、入試本番までに力をつけてくる層。高校受験でその成績をとろうとすれば、中学時の成績はトップクラス。また、都道府県によりますが、高校受験では中学在学時の成績や授業態度なども加味して評価されたりもするので、必然的に学習への意欲・姿勢を持ち合わせた生徒さんが選抜されてきます。彼らは特に言われなくてもやるべきことが出来、自学自習で力を発揮するでしょう。こういった、いわゆる「地頭」が良い生徒さんは、面接等が課される入試にも強いと思われます。

さらに、昨今は中堅と呼ばれる私立大医学部のレベルも上記に近づきつつあり、受験者のうち一定の割合は上位層に占められることになります。こういった大学を受験し、何とか残った椅子を狙おうとしている皆さんは、とにかく入試本番で不要なミスを犯さないよう注意して下さい。例えば、私立高校でも学力伸長を謳っている学校の中には、参考書などから日々課題を出してその確認テストをコンスタントに行っているところもあり、そういった学校に通っていれば、一度習っただけでは忘れてしまいやすい事項・解法も、何度か復習して定着できるなど、通常の「授業」だけでは不足しやすい演習量を補う機会が、自然と持てることになります。また、ネット上に溢れる受験に役立つ情報の量も、どんどん増えてきています。特にここ数年はSNSの発達によって受験生同士、もしくは受験生と遠隔地などの指導者が繋がるチャンスも広がってきました。ひと昔前であれば、受験の情報源はもっぱら書籍・雑誌類で、参考書・問題集などで自学自習するイコール「孤独」という図式もあったと思いますが、今やそうではなくなってきています。

まとめ

「教科書レベルを大きく超える問題に、短い時間で解答する」という大変高い目標に向かってこれから頑張っていかれる皆さんは、ライバルとなる受験生たちの頑張りに負けず、以下のことを意識して、これからの学習に臨んで欲しいと思います。

  • 教科書学習時から、なるべく上位レベルの問題に取り組んでおき、「貯金」をつくる
  • 学校、塾や予備校の指導者、参考書や問題集など、与えられた学習環境を十分に活用する
  • 難しい内容、差がつきやすい解法を反復練習して定着を図ると同時に、自分で弱点を見つける
  • 受験に役立つ情報を積極的に集めたり、同じ目標に向かって頑張れる仲間を見つけたりする