皆さんは何を目指して数学を学ぶか?
そもそも『数学を学ぶ』とは…などといきなりタイトル負けしそうですが、別に一般論を言いたいわけではありません。ぶっちゃけ言えば、これをお読みになっている皆さんが数学を学ぶ目的は
試験(入試)で点が取れるようになること
だと思いますが、そのため、皆さんには「問題の解答を『答案』という形に表現する必要がある」、もしくは「計算を正しく行い、空所にあてはまる数値や式などを正しく求める必要がある」、しかも、それらを「解答時間が限られた中で行う必要がある」というミッションが課せられているわけですが、これは非常に「遠い」目標だといえます。
受験数学の体系:数学の学習における6段階
目標が遠ければ、そこまでの道のりを出来る限り明らかにし、「目印」をつけてはどうか。筆者はそう考えました。そこで、多くの皆さんが経験するであろう学習の順序に従って、目標達成までの学習の様子を大きく2つの「学習サイクル」に分け、それぞれをさらに3つの段階に分けることにしました。後述のように例外も出てきますが、典型的なサイクルは、2×3の6段階です。
大学受験数学の学習サイクル(提唱:水野)
番号 | 名称 | 具体的にやること(学校の場合) | 具体的にやること(学校以外の場合) | |
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基礎サイクル | 1-1 | 基礎の導入 | 検定教科書・授業プリント等 | 講義調などの初学者向け導入書(読んで理解できるレベル) |
↓ | 1-2 | 基礎の練習 | 傍用問題集・課題プリント等 | 「青チャート」等の基本例題(8割理解)・センター試験の過去問(分野別) |
↓ | 1-3 | 基礎の確認 | 定期考査・長期休暇の課題ほか | 主に高2までの模試(難易度によるが8割程度) |
応用サイクル | 2-1 | 応用の導入 |
演習授業・授業プリント等 | 「青チャート」等の基本例題(完成)~応用例題・「1対1対応の演習」等 |
↓ | 2-2 | 応用の練習 | 受験用問題集・課題プリント等 | センター試験過去問(8~9割)・中堅私立大の小問(原則完答) |
↓ | 2-3 | 応用の確認 | 確認テスト・実力テスト等 | 主に高3以降の模試(難易度により6~8割)・上位私立大の過去問 |
※必要に応じて、基礎サイクルの前に設ける
(準備サイクル) | 0-1~0-3 | 補習授業・再テスト等 | 主に学び直し(個別指導などによる) |
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※目標レベルが高い場合、応用サイクルの後に設ける
(実戦演習サイクル) | 3-1~3-3 | 志望校別授業・本番シミュレーションなど | 上級の通信添削・難関私立大&国公立大の過去問・難問対策など |
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学校の授業では、教科書の内容(基本事項や例題の解法)を理解し、宿題で問題集などの問題を解きます。その内容がどれだけ身についたかは、定期考査の点数という形で表れます。これは主に高2までの学習の流れです。表では「基礎サイクル」と呼んでいます。高3になると、数学Ⅲの教科書学習と既習範囲の演習授業が導入となり、そこから参考書や問題集で演習、さらに模試を受ける(その延長上に入試がありますが…)という別の流れになろうかと思います。「応用サイクル」です。各サイクルは、授業を受けるなどの「導入」、自分で学習を進めていく「練習」、力試しを行う「確認」の3段階に分けました。各段階に番号を1-1、1-2、1-3、2-1、2-2、2-3とふっていくと、何やら某ゲームのワールド名っぽくなりますが、筆者はこの短さが気に入ったので、当サイトでもなるべくこう呼ぶことにします。さらに、人によってはその前後の段階にもまとまった時間が必要になるので、基礎のさらに前段階の学習(高校内容以前の学習など)は準備サイクル(0-1~3)、応用に+αする学習(総合問題の対策など)は実戦演習サイクル(3-1~3)も意識すれば、9段階(以上)に増えます。
足りないものを意識する
まず、皆さんは、今までどのような学習をしてきたかをふり返り、6つの学習段階に当てはめて下さい。必ずと言っていいほど、不足しているものや偏りが明らかになります。授業を受けたり参考書を読んだりするだけで、手を動かして練習しないから、定期考査や模試で解法を度忘れしたり、ミスを犯したりするといった失敗はよくあります。問題集の問題は多く解いているものの、すぐに解答を見てしまう人、読んで理解するだけの人も伸びません。抜けている知識を教科書で補ったり(導入)、何も見なくても同じ問題が解けるぐらいまで(確認)意識してやったりしているでしょうか。この調子で、全学習段階におけるつまずきのパターンを網羅し、それぞれに具体的に何をしたらよいか考えていきたいところですが、別の機会とさせていただきます。
指導者から見た効率のよい学習順序
さて、ひととおり教科書は学び終えて、これから本格的な学習を始める人は、まずは自身が「1-3」段階にいると仮定して、弱点やつまずきどころがないかを診断しましょう。教科書の章末程度の、少しだけひねった問題を問題集で解いたり、既習範囲のセンター試験の問題に取り組んでみて、時間を度外視すれば8割以上とれるか(そして、解答を読めばすべての解法が理解できるか)で判断したり、様々な方法がありますが、クリアできていると判断できれば応用サイクル(2-1)以降に時間がかけられますし、足りなければ前の段階(1-2と1-1)を必要分補えばよいとわかります。
さて、少しは「分野」の話もしたいのですが、これから本格的な学習を始めたいものの、どの分野から学習してよいか分からない人は、「場合の数と確率」から始めてはどうでしょうか。予備知識が少なくて済み、覚えることも少ないので、教科書レベルから入試レベルまでを短期間で一望することができるうえ、模試や入試でも頻出で、他分野との融合も少ないので、比較的短いスパンで成果が実感できます。「確率と漸化式の融合問題」という入試で頻出のテーマがあり、漸化式を学んでいない人はそこだけ後回しにして下さい。
あとは、出来る限り似たものを一気に片付けていくのがオススメです。分野間のつながりを理解しつつ取り組めるようになると、各分野で学んだときはバラバラだった知識が体系づけられ、それが実感できたとき、一度に目の前が開けた感覚が味わえ、その瞬間に学力も一気に伸びるものです。(筆者は勝手にこういったイメージを持っていますが、あながち間違いではないでしょう)
指導者として見た、受験数学の効率的な学習順序
①最優先!確率系 | ②数式系 | ③関数系 | ④図形系 | ⑤論理系・その他 | |
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数学Ⅰ | 数と式 方程式と不等式 |
2次関数 三角比(基本) |
三角比(正弦定理~) | 命題と論理 データの分析 |
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数学A | 場合の数と確率 | 図形の性質 | 整数の性質 | ||
数学Ⅱ | 割り算・分数式 二項定理 複素数と2次方程式 剰余・因数定理 |
三角関数 指数・対数関数 微・積分法 |
等式・不等式の証明 | ||
数学B | (確率漸化式→②) | 数列・漸化式 | ベクトル | 数学的帰納法 | |
数学Ⅲ | 分数・無理関数 逆・合成関数など 関数の極限 |
複素数平面 式と曲線 |
数列の極限 | ||
微・積分法 |
※ある程度のところまで習ったあとという前提ですので、一部論理的なつながりを無視している箇所もあります。
特に重視すべき分野
まず、すべての基礎になるのが数式系(数と式、割り算・分数式・二項定理、複素数と方程式、剰余定理と高次方程式など)ですが、現課程では数学Ⅰ・Ⅱに分かれてしまい、取り組みづらくなりました。ともに教科書の前半部分にありますが、わからなければとりあえず数学Ⅰ分野だけでも大丈夫です。そして、数列(漸化式まで)を習っていれば、確率と漸化式の融合問題をよく出す大学を志望している場合、ここで入試問題にいきなり触れてしまうことも考えられます。ついで、関数系(2次関数、三角関数、指数・対数関数、分数関数など、微・積分法)にとりかかりましょう。厳密には三角関数をやる前に三角比を学んでおく必要がありますが、分野の前半(正弦・余弦定理が出てくる前)まで終えれば、図形への応用は後回しでもかまわないと思います。数学Ⅱ・Ⅲの微・積分法についても、ある程度まとめてやってしまう方が効率がよくなります。この段階では、各分野独特の「ひねった」問題は後回しにしても構わないので、特に三角関数分野は公式の導き方など導入部分に重点をおいて、ある程度全体像をつかんでください。そして図形系(三角比、図形の性質、図形と方程式、ベクトル、式と曲線、複素数平面)に取り組みます。苦手な受験生の多い分野でもありますが、大学によっては好んで出題する傾向にあるので、なるべく時間をかけましょう。特にベクトルは基本事項自体が難解ですが、慣れれば便利な道具だということが理解できると思います。このように進めていくと、論理系(背理法など)、データの分析、整数の性質、数学的帰納法を含む、極限が残りますが、これらの分野はとりあえず入試基礎レベルまでをしっかり押さえ、抜けている基本事項はとりあえず無いという状態までもっていけば、あとは問題演習を通じて自然と肉付けしていくことも可能かと思います。