突然ですが、『保護者の皆さんへ』でございます

さて、本シリーズではこれまで「数学の学習法」について述べてきましたが、今回は「保護者の皆さんへ」と題してお送りすることになりました。筆者自身、あまりこういう立場で話す機会がないので内心ドキドキしておりますが(笑)、自身が高校時代に数学を学習していて、周りの人間にこうは言われたくなかったな、こう指導されていたらもっと伸びたんじゃないかな、そのあたりのことを思い出しながら、始めさせていただきます。

数学は、努力が成果につながるまでに期間を要する教科です

まずは筆者自身の思い出を話させてください。筆者はとある中高一貫校に在籍していましたが、その中3のとき(公立高校で言えば高1の2学期ぐらいに相当するでしょうか?)、実力テストで120点中8点(確か因数分解の問題が1題合っただけで、他は部分点も含めて無し)という壊滅的な点数を取ってしまったことがありました。その少し後に、確か保護者と学級担任の面談があったのですが、当時数学の担当でも担任の先生は、親に「まあ、こういうこともあります。心配しなくて良いですよ」と言ってくれたらしいです。もしこのときに「家ではこうさせて下さい」「これとこれをやらせて下さい」と事細かに言われ、かつ親からそのとおりの話を聞いていたとしたらと思うと、本当にゾッとします。とにかく、そこで諦めなかったことで、次に繋がりました。

とは言うものの、そのあともなかなか苦手意識は抜けず、ある時期は相当「ひねくれて」いました。高3になって、某○○会の通信添削を始めたものの、何故か最初に一番難しいコースを選んでしまい、ここでも挫折しかかりました。ちょうど「期」の境目か何かがあって、レベルを落とし、ようやく落ち着いたのを覚えています。何やかやで、入試レベルの問題を見たときに「解ける気がする」ようになったのは、かなり受験が近づいてからでした。ただ、どの授業・どの教材から何を学んだという以前に、この一連の経験自体が、何かの形で自分の中で「糧」となったように思います。

自身の場合はやや極端かも知れませんが、数学という教科の特性として、それなりに努力しているつもりでも、なかなか目に見える成果が出ないことがあると思います。1日あたり問題集をこれだけやらないといけないとか、いつになったら模試の判定が上がるんだとか、何が何でも来春合格するんだとか、必要以上にご本人さんを追い詰めないで下さい。こと数学に関しては、学習内容の身につき方や学習姿勢にも「それ」が出てしまいやすい気がします。

どんな状況でも信じて待ってあげることができる最後の人は、他ならぬ保護者の皆さんです。

うるさく言うことは、学校や塾・予備校の指導者にも出来ますので、どうかそちらに任せて下さい。

塾・予備校・家庭教師活用法

では、学校以外の学習環境や指導者をどう「活用」するかも、数学という教科の特性に即して考えてみましょう。努力が結果につながるまでに時期を要することはすでに述べましたが、与えられた問題を解く際に、どの基本事項を用いてどのように答案を書けばよいかが他教科に比べてハッキリしている点も大事ですね。また、医学部に関して言うと、学校によって出題形式などもまちまちなうえ、総じて高得点が求められますから、本番に向けた対策も重要になってきます。

最も分かりやすいのが家庭教師ですが、ご本人さんとの距離の近さを生かし、問題(例えば模試や定期考査の)が解けなかったときに、どこでミスしているかを分析してもらったり、答案をどのように書けば減点されないか、読みやすくなるかといった点を主に指導してもらうとよいでしょう。もちろん、学校の長期休みの宿題を手伝ってくれとか、それこそメンタル面のサポートであるとか、参考書を1冊決めてこれを仕上げさせてくれとか、最初はそういったところから入るのもアリかも知れません。が、これらはあくまで「入口」と考えましょう。ゆくゆくはご本人さんが自分の中で消化できるようになるべきことに、いつまでもコストは払いたくないでしょうし、ご本人さんのためにもなりません。学習が軌道に乗れば、適度に課題を出してもらい、指導してもらう時間は分からない箇所に絞ってフォローしてもらうというふうに密度を上げていけますが、そうなるまでには、ある程度待つ必要があろうかと思います。

塾・予備校に期待することといえば、まずは入試の傾向に即したテキスト・カリキュラムといったノウハウ面でしょうか。学校での進路指導に物足りなさを感じていらっしゃるのであれば、一度そういったところに問い合わせてみられてはと思います。もう少し教科寄りの話をするなら、学校の授業とはひと味違った「味付け」の部分に、期待するところが大きいかと思います。個人的に、塾・予備校の数学指導者の皆さんに一番やって欲しいのは、1つの問題を様々なアプローチで解きつつ、バラバラだった知識を関連付けて整理してくれるような授業です。個別指導の塾・予備校になると、こういったものに加えて家庭教師の要素も入ってきます。手間をかけてくれる分、当然払うコストも大きくはなりますが、「わかっている」ところであれば、払ったコストに見合うものを与えてくれるでしょう。

ノートの内容を○○させてみて下さい

さて、いろいろ手を尽くされても、ご本人さんが学校なり塾・予備校なりで学習した内容がきちんと身についているかどうか、気になると思います。そこで、学校や塾・予備校の授業ノートをチェックしてあげて下さい。…と、まずはそれを見せてくれるだけの信頼関係がご本人さんとの間にあるかですが(汗)、最初は「きれいに書けているね」「医学部ってこんなに難しいことまで必要なんだ」ととにかくほめてあげて下さい。また、「どんな問題を解いたの?」「自分も昔やったけど、今の教科書にはどう載っているの?」など、保護者として興味があることも伝えていただきたいと思います。そして、教科内容など+αの話が出来る空気になったら、ときどきで結構ですので、

とにかく『説明』させてみて下さい。

まずは、分かっていないなら分かっていないなりに、ひとまず「言語化」できるだけでも大きな前進といえます。内容をよく理解していないと、言葉のつながりは覿面におかしくなりますから、分からなくなったところで、「じゃあ書き出してみようか」「先生は授業でこう説明したでしょう?だったらその言葉もノートに書いておくと後で思い出しやすいよ」などなど言い出せばきりがありませんが、いろいろなアドバイスをしていただく良いきっかけになるかと思います。(他に切羽詰まった宿題などのないときなどに限らないと、ただただ嫌がられると思いますが…)

次の段階に入ると、言葉としては繋がっているけれど、理由の部分が抜けていていきなり結論へ飛ぶところが見つかるかと思います。「それは何故?」「それってどういうこと?」とたずねていただいて、曖昧な答えしか返ってこなければ、それは習った(はずの)ことが身についていないサインと思われます。また、少々話がそれますが、最近は特に「○○先生がこれは判別式で解けるって言った」のように、いきなり自分以外の人を主語にして話を進めようとする、どこか「他人事」のような言い方を平気でする(もっと言えば、当事者意識に欠ける)生徒さんが増えたような気がします。こういった場合は、「本当は分かっていない、ということが(入試のときに分かっても何も出来ないけれど)今分かって良かったね」と思ってあげることにし、出来る限り一緒に考えてあげて下さい。

このとき意識していただきたいのが、「考えるプロセスの見える化」です。保護者さんは予備知識のないところからのスタートなので、それこそ「この記号は何?」から始まると思いますが、時にはそのレベルから説明させるのも大事かと思います。そして、「問題集の解答の、これってどういう意味なの?」「よし、教科書に戻ってみよう」「紙に書き出してみよう」のようになっていくと思うのですが、そのように段階を踏んでいくことによって、ご本人さんも「あ、これが考えるということか」と気づくのではないでしょうか。

今の生徒さんには、考えるにも「お手本」が必要だと思います。

そして、ご本人さんが試験を受けるときに、保護者さんにしてもらったことを自分の中で反芻できるようになれば、自然と記述の答案も書けるようになります。それこそ「見える化」ですが、数学の学習(のサポート)に限らず、日々の接し方の中でも、何かしら意識できることはあるのではないでしょうか。是非探してみて下さい!