日本の医学部受験は年々厳しさを増しており、偏差値65以上でなくては医学部に合格することはできません。また、たとえ偏差値が高くとも、一発勝負の入試では不合格となり、不毛な浪人生活を送ってしまうこともありえます。あるいは、すでに社会人としての経験を積んでしまっており、1から医学部受験の勉強をすることに抵抗がある人もいるでしょう。

このように、日本の大学入試にうまくマッチすることができない人にとって、医師になる大きなチャンスが海外大学の医学部受験なのです。

また、2016年10月にはカンボジアのプノンペンに北原病院系列のSunrise Japan Hospital Phnom Penhが開院しました。これは政府の後押しによる「病院丸ごと輸出」の第一弾で。今後、成長戦略の一環としてこうした海外への拠点病院の進出が推進されていくことになります(2016年現在、新興国を中心に10か所の病院丸ごと輸出が計画されています)。

こうしたことからも、英語で医学教育を受け、卒業と同時に海外の医師免許を取得できる海外大学医学部への進学は、新しいキャリアとしてあり得ると考えられます。

海外大学医学部の入学試験は、国により難易度が異なりますが、ハンガリー国立大学やチェコ国立大学の入学試験は、日本の大学の入試偏差値で50~55程度で、明確な意志さえあれば日本の入学試験よりもずっと合格しやすい試験です。

また、大学での授業は現地語ではなく、日本人にもなじみのある英語で行われ、英語と医学を同時に学ぶことができるというメリットがあります。

英語に自信のない人でも、ハンガリー国立大学やチェコ国立大学のように、医学部入学前に1年間または半年の予備コースや英語研修制度を課すなど、授業を受けるのに必要な能力を身に着ける制度がしっかりと用意されている大学もあり、そうした大学を選択すれば、無理なく海外大学医学部に入学することができます。

しかし、問題もあります。入学よりも卒業までの大学生活と、卒業後の医師国家試験受験です。これらで失敗して退学や医師国家試験受験に不合格になると、それまでの苦労がすべて無駄となってしまいます。

海外大学医学部は、大学が所在するのは他国ですから、文化も食事も行政も、何もかもが日本と異なります。例えば、市役所での住民登録や水道、電気の開通といった生活に必要なインフラの整備だけでも一仕事で、それに加えて様々な習慣の違いにも対処していかなくてはなりません。

しかし、ただでさえ英語や医学の勉強と格闘しなくてはならないのですから、それ以外のことにリソースを振り分けるのは得策ではありません。大事な勉強に集中できず、挫折する結果に終わってしまいます。

ましてや、海外大学の医学部は内部での勉強が非常に厳しく、毎年多くの留年・退学者が出ますから、勉強に関係のない部分ではサポートを受け、極力、エネルギーを使わないようにしなくてはなりません。

その点、ハンガリー国立大学、チェコ国立大学への留学は、それぞれ東京都新宿にあるハンガリー医科大学事務局、チェコ医科大学事務局が、大学入学試験から卒業、医師国家試験受験までに必要な手続き、生活や勉強をする上で生じる様々な問題に対処し、支援を行っています。

例えば、日本における基本教育、予備コース入学から大学入学までの支援、ハンガリーやチェコでの生活全般、卒業後、日本の医師国家試験受験までです。

ハンガリー医科大学事務局の中谷さんに、ハンガリー国立大学医学部への留学と、支援体制についてお尋ねしました。

Que:海外大学医学部で学ぶことの最大の利点はなんでしょうか?

Ans:ネットワーク作り、国際交流を通じて得られる新しい価値観などが挙げられますが、最大の利点としては英語力ではないでしょうか。日本で医師活動をするとしても、最近は外国人観光客や外国人労働者も増えましたから、英語で診療ができる医師のニーズは高まっていると思います。医師を海外に派遣し、英語を習得させる制度を持っている病院もありますが、海外の医学部を卒業した医師であれば、海外派遣は不要ですから、即戦力として活躍できます。また、国際的な学会での共通言語は英語ですし、医師としての活動を日本だけではなくグローバルに考えている学生にとっては、英語で医学を学ぶ利点は大きいと思います。

Que:英語が全くできなくても受験することはできますか?

Ans:英語が全くできないと受験をしても合格は難しいでしょう。授業や試験は全て英語で行われますから、予備コースからの入学であれば、せめて英検2級程度の英語力があることが望ましいです。

Que:現地でのサポート体制を教えてください。

Ans:現地には、日本人学生専用のスタディルームという勉強部屋があります。そこには、日本人スタッフが駐在していますので、日々の生活面のサポートを行っています。また、先輩学生や講師などによる勉強会も実施していますので、先輩からテスト対策のアドバイスを受けたり、大学での勉強が遅れている部分を取り戻したりすることができます。

Que:卒業後、すぐに日本の医師国家試験を受験することができますか。

Ans:あくまでも個々人が厚生労働省に医師国家試験受験資格の申請をしますので、その結果は個人によって異なります。ただし、ハンガリーの医学部を卒業し、厚生労働省の審査を受けた日本人学生は今のところ全員、医師国家試験の受験資格を得ています。